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片持ちスラブは「上端筋が主筋」という前提を全員で共有する

片持ちスラブ(庇、バルコニー、ひさし、開放廊下の跳ね出し部)は、根元で曲げを受け持ち、上側が引張になる。つまり上端筋が主筋で、下端筋は組立て・ひび割れ・施工時の安定のために入っている、という力の流れになる。両端支持の一般スラブとは上下が逆であり、ここを取り違えた配筋は致命的になる。
さらに厄介なのが、上端筋は「入っていればいい」ものではない点だ。曲げに効く力は、上端筋からコンクリート下面までの距離(有効せい)に比例して大きくなる。上端筋が数センチ下がっただけでも、その分だけ耐力が素直に落ちる。しかも下がった鉄筋は、外から見ても分からない。位置がすべての部材だと考えてよい。
現場の段取りとしては、次の3つが柱になる。
- 根元の定着を確実に取る
- 上端筋の高さを、打設が終わるまで保持する
- 打設中に踏み抜かれない導線をつくる
根元の定着 —— 「跳ね出している側」より「呑み込ませる側」
片持ちスラブは、根元の定着が効いて初めて片持ちとして成立する。先端側の納まりより、躯体側に呑み込ませる部分のほうが重要だ。
確認すべきポイント:
- 定着先がどの部材か(梁か、大梁か、反対側のスラブへ通すのか)を施工図で確定させる。反対側スラブへ通す指定なら、その通し長さも図面で指定される。
- 定着長さ・折曲げ形状は設計図書と特記仕様書による。 現場判断で短くしたり、フックの向きを変えたりしない。
- 梁主筋・あばら筋との干渉。片持ちの上端筋は梁上端筋と同じ高さ帯に集まるため、どちらが上でどちらが下か、あばら筋の内側か外側かを事前に決めておく。ここを現場合わせにすると、当日その場で上端筋を一段下げるという最悪の解決をしがちだ。
- 打ち継ぎ位置。片持ちの根元に打ち継ぎを設けるのは原則避ける。やむを得ない場合は監理者の指示を受ける。
- 先付け(差し筋)で処理する場合、先行躯体に埋め込む側の長さ・位置精度が後から効いてくる。型枠に固定して動かないようにする。
上端筋を落とさない —— 馬とスペーサーの置き方

上端筋の高さを決めるのは、下からの支持(馬・バーサポート)である。ここを軽く見ると、配筋検査は通っても打設で沈む。
配置順を先に決める
片持ち方向の主筋を上端の最も外側(型枠から見て上、かぶり側)に置くと有効せいを大きく取れるため、一般にはそうした納まりになる。配力筋との上下関係は図面で指定されることが多いので、主筋がどの段に来るかを施工図で確定させてから組む。組み始めてから「逆だった」となると、馬の高さ設定もすべてやり直しになる。
馬の置き方
- 上端筋の主筋を直接受ける位置に入れる。配力筋だけを受けていると、主筋は配力筋のたわみ分だけ下がる。
- 先端側を欠かさない。跳ね出しの先端は支えが片側しかなく、人が乗ると最も動く。
- 根元の梁際も落としやすい。梁筋との干渉を避けて馬を逃がした結果、梁際だけ無支持になっていないか。
- 馬同士を通りよく並べ、上端筋と確実に結束する。置いてあるだけの馬は打設中に横倒しになる。
- 下端側のかぶりを確保するスペーサーは別物。上端用の馬と下端用のスペーサーは役割が違うので、両方が計画に入っているか確認する。
馬の間隔・高さ、スペーサーの種類と数量は、スラブ厚・鉄筋径・歩行荷重によって変わる。設計図書と施工計画書で決めた仕様に従うこと。
打設中に踏み抜かれない導線をつくる
上端筋が下がる原因の大半は、コンクリート打設中の踏み抜きである。配筋検査の時点では正しかった、という現場は珍しくない。
| 対策 | 具体的にやること |
|---|---|
| 歩み板・キャットウォーク | 上端筋の上を直接歩かせない。打設ルートに沿って板を渡し、位置を打設前に決める |
| ホース・筒先の扱い | 配筋の上でホースを引きずらない。筒先を上端筋に載せて支点にしない |
| 追い直し要員 | 鉄筋工を打設に張り付け、沈んだ箇所をその場で戻す。特に先端と梁際を重点的に見る |
| バイブレータ | 鉄筋を直接加振しない。型枠・鉄筋への接触を避ける |
| 打設順序 | 片持ち部と本体部の打ち順・沈み対策を、打設計画で事前に決めておく |
| 天端の確認 | 上端筋が沈めばその分かぶりが増え、有効せいが落ちる。逆に天端レベルが下がればスラブ厚が薄くなり、上端筋のかぶりが不足する。天端レベルと上端筋の高さは別々の管理項目として、両方を押さえる |
「打設前に馬を増し打ちする」「歩行帯を明示してテープを張る」といった単純な手当てが、結局いちばん効く。
配筋検査で見られる点
| 項目 | 見られる内容 |
|---|---|
| 上端筋の位置 | 上下の取り違えがないか、所定の段にあるか |
| かぶり | 上端側・下端側とも確保されているか。スペーサーの種類と配置 |
| 定着 | 根元の呑み込み長さ、折曲げ形状、定着先の部材(設計図書どおりか) |
| 間隔・本数 | 主筋・配力筋の間隔と本数。先端部の納まり |
| 開口・スリーブ廻り | 補強筋の有無と位置。設備との取り合いで主筋を切っていないか |
| 馬・支持 | 上端筋を実際に支えているか、結束されているか |
| 先端部 | 先端の納まり筋、手すり・笠木の埋込み金物との干渉 |
| 清掃・状態 | 型枠内の清掃、鉄筋の浮き錆・油分 |
検査は写真で記録を残し、是正箇所は同じアングルで再撮影しておくと後から追える。海外では、点群スキャンや画像解析で配筋を記録し、電子データとして検査記録を残す運用が広がっているとされるが、日本国内の施工・検査はあくまで設計図書と日本の規準、監理者の指示に従う。
安全 —— 跳ね出し先端と差し筋
片持ち部は先端が開放されており、墜落・飛来落下のリスクが高い。配筋作業に入る前に、手すり・親綱・先行足場の状態を確認する。
差し筋・立ち上がり筋への保護キャップは日本でも使われているが、海外では「誰がいつ取り付け、誰が確認するか」を作業手順書のレベルで明文化する運用が一般的だとされる。取り付けたきり誰も見ていない、という状態にしないという点は参考になる。国内でも、キャップの取付・点検を日々の作業手順のなかに位置づけておくとよい。
段取りチェックリスト
- [ ] 施工図で上端筋の段位置・配置順を確定したか
- [ ] 根元の定着先と定着長さを設計図書で確認したか
- [ ] 梁筋・あばら筋との干渉を事前に解消したか
- [ ] 馬の仕様・間隔を計画し、材料を用意したか
- [ ] 上端用の馬と下端用スペーサーを区別して手配したか
- [ ] 打設ルートと歩み板の配置を決めたか
- [ ] 打設時の追い直し要員を確保したか
- [ ] 開口・スリーブ・埋込み金物の位置を配筋前に確認したか
- [ ] 先端部の墜落防止措置と差し筋キャップの担当者を決めたか
※本記事は一般的な解説です。実際の施工にあたっては、設計図書および工事監理者の指示を必ず優先してください。
