新国立競技場の魅力と建築技術【隈研吾氏設計】

2020年東京オリンピック開催に向けて建設された新国立競技場は、建築家の隈研吾さんが設計したものです。

和を感じさせる外観には、自然エネルギーを利用した工夫とさまざまな建築技術が採用されています。

今回は、世界的にも活躍されている隈研吾さんが設計した新国立競技場の魅力とはなにか、採用されている建築技術はどんなものかご紹介していきます。

新国立競技場の設計者 隈研吾の技術提案

国立競技場を設計した建築家の隈研吾さんと、採用に至った提案についてみていきましょう。

建築家 隈研吾とは?

建築家の隈研吾さんは東京大学工学部建築学科大学院を修了し、米コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所を開業されました。

元々、1964年東京オリンピックの開催に丹下健三さんが設計された代々木体育館を見たのが、建築家を志したきっかけのようですね。

隈研吾さんの作品に見られるのは、木材を使った和をイメージさせるデザインが特徴で「和の大家」と称されています。

日本建築学会受賞した1997年「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」は、能舞台建築の伝統を前提に、新しい工夫を施し、風や光、自然を感じて一体となる空間を演出しています。

他にも、「水/ガラス」はアメリカ建築家協会ベネディクタス賞を受賞し、ガラスに覆われた建物が海の上に浮かぶように、建築と海とを接続しようという試みがされた作品です。

「スターバックス太宰府天満宮表参道店(福岡県)」や「浅草文化観光センター(東京都)」、「サニーヒルズ南青山店(東京都)」など、世界的にも注目されている建築家です。

新国立競技場の技術提案

新国立競技場の技術提案書は4つのテーマをコンセプトに提案がされています。

【新国立競技場の技術提案】

・広く市民に開かれた”木と緑のスタジアム”

・臨場感と見やすさ・競技者の力を引き出す”皆のスタジアム”

・持続的な森を形成する大地に近い”環境共生型スタジアム”

・コスト・工期を縮減する”シンプルな同断面の構成”

この4つのテーマに一つ一つ新国立競技場を造る技術提案が盛り込まれていて、建築物の魅力が形成されています。

新国立競技場を見る方は、上記のテーマを踏まえてご覧になると、より一層に新国立競技場の魅力を感じることができるでしょう。

※参考:新国立競技場整備事業 技術提案書

国立競技場の建築技術の魅力

新国立競技場はさまざまな建築技術により、建物を利用する人が快適に扱えるような工夫が凝らされています。その一部をご紹介していきます。

国立競技場(オリンピックスタジアム)の基本情報

国立競技場(オリンピックスタジアム)基本情報
所在地 東京都新宿区霞ヶ丘町10-1
竣工日 2019年11月30日
敷地面積 109,767.83㎡
建築面積 69,611.33㎡
延床面積 192,049.94㎡
スタジアム大きさ 南北約350m、東西約260m、高さ約47m
階層 地上5階、地下2階、塔屋1階
観客席数 約6万席(うち車いす席約500)
アクセス JR総武線「千駄ヶ谷」駅・「信濃町」駅から徒歩5分

都営大江戸線「国立競技場」駅から徒歩1分

東京メトロ銀座線「外苑前」駅から徒歩9分

新国立競技場は2019年11月30日に完成し、12月21日にオープニングイベントが開催されています。2020年の元日にはサッカー天皇杯全日本選手権の決勝が競技場として初めて行われました。

建物の高さは約47mと低めで水平的な外観から圧迫感が少ないデザインです。

建物の最上階はスタジアムを囲うように1周850mある散歩道「空の杜」が設けられ、森を見渡すことができて、四季を感じながら都市景観を楽しめる展望スペースとなっています。

国産木材の使用と日本伝統的な建築デザイン

新国立競技場は特徴的な大きな庇があります。

これは京都法隆寺、五重塔から着想を得ている日本伝統的な建築デザインを取り入れています。

5層からなる縦の格子状に組まれた庇は360°つながっていて、最上部の一番大きな庇を「風の大庇」と呼び、スタジアム内に四季折々の風を取り込む設計です。

屋根は木材と鉄骨のハイブリッド構造となっており、木のしなやかさと鉄骨の強度により地震や強風の歪みを吸収します。

また、新国立競技場は国産木材をふんだんに使用しているのも特徴的です。

木材は47都道府県の杉を使用し、それぞれの産地に向けた方角に並べられ、日本全国との一体感を象徴する演出がされています。

木材は色の経年変化を抑えるために、白く塗装して仕上げられているのが特徴ですね。

庇の上には土を使用しなくても植物を育てることができるリサイクルマテリアルを採用し、在来種の緑の植物が植えられています。

自然エネルギーの利用・制御によって環境を整える建築技術

新国立競技場は、自然の風をうまく取り込み効率よくスタジアム内の環境を整える工夫がされています。

スタジアム内に入る風は、コンピューターで風向きを計算し、風通りをよくする造りになっています。

また、地域の風を分析しシミュレーションをすることで、夏場の風を場内に取り入れ、冬場の北風は上に逃す仕組みにできています。

座席の下にはファンが設置されていて、暑い時はそのファンがまわり風を場内に流す仕組みとなっており、これらによりスタジアム内の温度を調整する工夫が施されています。

温熱環境の向上に卓越風を活かした風の大庇

卓越風とは、あるエリアで特定の期間(月または年間)に最も吹きやすい風向きの風を言います。

この卓越風を活かしているのが新国立競技場に設けられている最上部の大きな庇「風の大庇」です。

上空の風が「風の大庇」によって観客席やフィールドへと流れる仕組みとなっており、場内の熱が風に取り込まれた際に上昇気流となり、熱と湿気を上部から排出される設計がされています。

庇の格子は冬の風の影響が極力でないように、方位に応じて間隔(開口率)を変えて風の量を調整し、快適な観戦環境をつくっています。

透明なガラスのように眺望性に優れる太陽光パネルの採用

新国立競技場に設けられている太陽光パネルは、透明の窓ガラスのような意匠性を備えていて、観客席から見ることができます。

現在普及している太陽光パネルは透明ではなく視線や外の景色を透過しませんが、新国立競技場に採用された太陽光パネルは、自然エネルギーの蓄えができながらも眺望性に優れた建築技術となっています。

この太陽光パネルは、建物に植えられている植物に自動で水をあげるエネルギーに使われ、その他にもかつてあった渋谷川を再現して設けられた「せせらぎ」の水をポンプで循環させるためのエネルギーとして利用されています。

まとめ

ここまで建築家の隈研吾さんが設計した新国立競技場の建築技術と魅力についてお伝えしてきました。

建築物には建築家が込めた物語が含まれています。新国立競技場を見てきた方、これから見に行く方、どちらにとっても、新たな一面を見つけるきっかけになれば幸いです。

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