横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
建設業と言えば、どんなイメージを持っているでしょうか?
私がまず思い浮かべるのは、建設現場で作業着を着ている人たちです。
そして、いつも力仕事できつそうなイメージがあるのではないでしょうか。
また、私たちが休日で出かけている時も、建設現場は稼働しているイメージがあります。
建設業で勤務している人は土日も休まずに働いているのでしょうか。
今回はそんな建設業の休日の状況・出勤日数を中心に建設業の実態を見ていきましょう。
目次
建設業の実態
建設業は残業が多い、休みが取れないといった噂を良く聞きます。
実際の所はどうなのでしょうか。
まずは建設業の出勤日数から見てみましょう。
建設業の出勤日数
上のグラフは、建設業の労働時間の長さと、休日出勤の多さを表しています。
国土交通省の調べによると、他業種に比べて建設業は出勤日数が多く、労働時間が長いことがわかります。
長時間労働の業界ランキングでは様々な調査がありますが、建設業は基本的に上位にランクインするのが普通です。
私自身、建設業で働いていた経験があり、「週1休みが普通」「月に100時間を越える残業」はそれほど驚くことではありませんでした。
また建設業に勤める知人からは「今日も帰れない」「2か月ぶりの休みだ」などと良く聞きます。
また、昨年新国立競技場の建設工事に関わっていた23歳の新卒社員が過労自殺するというニュースもありました。
この社員が自殺する直前の1か月の残業は212時間だったと言います。
さらに、下請けの小さな会社だけでなく、超大手のスーパーゼネコンでさえ長時間労働は常態化しています。
建設業界で働いていると、周りがそうだからと100時間の以上の残業をしても受け入れてしまう傾向にあります。
出勤日数が他業種に比べて多い建設業ですが、建設業で働いている人にも職人や監督など様々な人がいます。
それでは、職種別の休日の実態はどのようになっているのでしょうか。
職種別の休日の実態
上記のグラフは、現場監督者と職人の休日出勤状況です。
1番下の技能労働者がいわゆる職人、一番上がゼネコンの監督、真ん中が専門工事業者の監督を示しています。
おおよそ50%以上が、日曜のみ休みが普通のようです。
完全土日休みはわずか6.5%となっています。
建設業で働いている人には、実際に工事を行う作業員と、その作業員を監督する現場監督者がいます。
また、着工(工事が始まる)前には、建物の意匠設計・構造設計・設備設計を行う設計者もいます。
その他にも、事務部隊などがいて会社が成り立っているのですが、建設業の中で1番忙しいのは最前線で働いている現場の人達です。
実際に工事を行う職人は土日祝も出勤することが多いです。
職人は他の監督者からの工事も担当しているため、引っ張りだこになっています。
職人に指示をする現場監督者も同じく出勤していますが、職人ほどではありません。
ですが、近年のオリンピックなどの工事需要の急増により、現場監督も同様に土日祝日も出勤することが多くなっているようです。
休日が中々取れていない建設業ですが、本来であれば働き方改革が推進されているので休めるでしょう。
では、働き方改革の実態はどうなっているのでしょうか。
働き方改革が追い付かない
出典:厚生労働省 パンフレット「時間外労働の上限規制 分かりやすい解説」
残業上限規制のイメージ図が上図になります。
2019年4月に「働き方改革関連法」が施行されましたが、建設業に関しては、改正が5年遅れの2024年4月以降となっています。
猶予が設けられていますが、課題は山積みです。
2024年4月には猶予期間も終わり、他業種と同様の残業や出勤日数が求められています。
建設業はそれまでに国レベルで業務改善に取り組み、改善していなければなりません。
そのため、国土交通省は「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定しています。
では、なぜ建設業は休みが少なく、出勤日数も多くなり、働き方改革が進んでいないのでしょうか。
なぜ建設業は休日が少なく働き方改革が進まないのか?
他業種と同時に施行できない理由は3つあります。
1つは長時間労働が多く休日出勤が普通な建設業の文化、2つ目は短すぎる工期・納期、3つ目は人手不足です。
これらの問題は深刻で、すぐに解決できるものではありません。
昔と変わらない建設業の文化
上のグラフは建設業と全産業の若者とベテランの割合です。
上のグラフから分かるように、建設業の就業者の55歳以上が約3割を占め、29歳以下が1割しかいないような状況になっています。
業界全体が高齢化しているのです。
通常の産業よりベテランの割合が多いためか、上司が昔の働き方を部下にも求める傾向があります。
私も「昔はもっと働いた」、「今はだいぶ良くなった」と良く言われていました。
この文化・風土では残業することが当たり前になり、誰もが長時間労働をしていまう傾向にあります。
このような厳しい建設業の文化がありますが、発注者が求める納期はどうなのでしょうか。
短すぎる納期
納期は顧客側の希望に沿ったものであり、かなり厳しいことが多いです。
建設現場では、いつまでに竣工(工事を終わらせること)させるか納期が予め決まっているのですが、着工後に大きく仕様変更があった場合でも、特に納期が延びるわけではありません。
また、悪天候や台風などにより、工事ができない場合もあります。
元から厳しい納期であるのにも限らず、それ以上に詰められることも多いです。
そのような理由から遅くまで残業して、土日祝日も工事せざるを得ない状況に陥っています。
厳しい条件であれば、仕事を請けなければいいのでは?と思うかもしれません。
確かに条件の良い仕事だけを請けている会社もあります。
しかし、大企業くらいに限られ、大企業でさえも厳しい条件で請けることが多々あります。
そのような風潮から、コンペではコストだけなく、納期も重要な観点として見られます。
建設業全体の人手不足
出典:建設業及び建設工事事業者の現状-国土交通省
3つ目は人手不足の問題です。
上のグラフでは建設業の就業者数を表しています。
赤の折れ線がピーク時よりも明らかに減少しているのが分かるでしょう。
実際に作業を行う職人、職人・お金・品質を管理する現場監督者ともに減少しているのです。
労働人口の減少の理由は主に2つあります。
1つは3Kのイメージが付いていること、もう1つはリーマンショック後の職人離れです。
1つ目の3Kとは、きつい(Kitsui)、きたない(Kitanai)、きけん(Kiken)の頭文字を取っています。
このイメージが染みついていることから若年層から支持されず、新しく建設業界に就職する人が少なくなっています。
今後の建設業は、どのように若年層を増やしていくかが課題になるでしょう。
2つ目はリーマンショック後の職人離れです。
リーマンショックにより、建設需要が激減しました。
仕事のなくなった職人たちの多くは、他業者への転職か、退職という道を選びました。
その後、景気の回復とともに建設需要も回復してきた一方で、転職や退職した職人の数は戻らず減り続けています。
建設業の今後
上記のように、建設業は大きな問題を複数抱えており、建設業の労働環境は厳しい状況にあります。
最近では働き方改革が世間的に広まり、その意識が国民に認識され、他の産業ではかなり働き方改革が進んで進んでいるところもありますが、建設業は働き方改革がなかなか進んでいません。
今後の建設業の課題はどのようなものがあるでしょうか?
法改正による労働環境の整備
建設業でも少しずつ働き方改革のきざしが見え始めています。
隔週で土日休みを徹底していたり、現場によっては、土日作業を禁止しているところもあります。
5年遅れではありますが、建設業界にも週休2日が常態化する将来がくるのでしょうか?
そのためには、長時間労働の改善や賃金改正を行い、労働環境を整える必要があります。
その結果、3kのイメージが払拭され、建設業界に就職する若者も増えていく流れが出来るのではないかと思います。
むしろ、他の産業が改善され、建設業だけが改善されなければ、人材は奪われ建設業の将来は暗いものとなるでしょう。
厚労省は、時間単位の有給消化制度の推進等の働き方改革推進を進めており、少しづつですが課題解決に向かって進んでいる印象を受けます。
技能継承のためにノウハウを蓄積/データ化する
建設中小企業の大きな課題は人材の育成/確保です。
熟練技能者が続々と引退してしまう中で、なんとか若手技能者を確保しつつ技能の承継を進めなければなりません。
熟練技能者の技能のデータを取ることは、後継の育成資料になります。
建設業の場合、技能のデータを取ることが難しく、今後はどのようにデータを取るのかが大きな課題になるでしょう。
単純作業の機械化/AI化
近年、製造業においては機械の精度が格段に上昇しているため、単純な作業であれば機械に任せることが一般的になりつつあります。
建設業も製造業の良いところを模倣する必要があります。
建設業の場合は、単純作業が製造業と比較して見つかりにくい特徴があり、実際の作業者によくヒアリングを行う必要があるでしょう。
一見、効率よい取り組みに見えても、全く意味のない機械やAIの導入だと意味がありません。
まとめ
建設業の出勤日数は他の産業と比べて多く、職種別でみると職人が1番休日が少ないようです。
建設業の休日出勤、出勤日数が多くなる理由としては3つありました。
- 昔と変わらない建設業の文化
- 短すぎる納期
- 建設業界全体の人員不足
の3点です。
建設業の今後はこの3点の改善するため、働き方改革を進めて行く必要があります。
既に、ICTなどのソリューションを用いて働き方改革を動きが見られていますが、この動きが止まることなく、加速するようにしていかなければなりません。