横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
建築業界におけるワークフロー、いわゆる企画から設計、製造、維持管理に至るまでの一連のワークフローは、残念ながら製造業に大きく後れを取っています。
製造業では早くから3DCADを導入し、設計部門だけでなく製造、資材調達、販売、維持管理に至るまで3DCADで作られたデータを共有し、コスト削減、製造効率の向上に役立てています。
しかも製造業で導入しているこの3DACDは、3Dモデルを構築する中で様々な情報をモデルに持たせ、その情報を管理することで図面、発注書、仕様書などを作成することが出来るのです。
これら製造系の3DCADには、ハイエンドと呼ばれる高価なものからミドルレンジと呼ばれるそこそこの値段のものまであり、三菱重工業やトヨタ自動車といった大手製造メーカーだけでなく、個人経営の町工場に至るまで3DCADを導入し、その恩恵を受けています。
更に言えば、教育現場でも3DCADを導入しており、大学や専門学校にとどまらず工業高校でもその操作を学ばせ、3DCADユーザーの裾野を広げているのです。
では、建築業界には、それほどのハイスペックな3DCADがあるのでしょうか?
実は、それが「BIM」というソリューションシステムなのです。
この記事では、BIMと3DCADの違い、BIM導入のメリット・デメリットについてご紹介します。
目次
BIMと3DCADは何が違うの?
では、BIMとは、どのようなシステムでこれまでの3DCADとは何が違うのでしょうか?
BIMとは?
BIMとは、Building Infomeation Modelingの略で、「建築を情報で創造する」といった意味になります。
先ほど、製造系の3DCADについて触れましたが、このBIMは同じようにオブジェクトに情報を持たせ、デザイン・企画から施工後の維持管理に至るまで、全てのワークフローにおいて一元管理することが出来るのです。
これにより、1つのCADデータをすべての部門で共有することが出来る為、設計ミス・施工ミス・施工不良といったマイナスを軽減することが可能となります。
更に、生産性の向上とコスト削減も実現できるのです。
これほど優れたシステムであるにも係わらず、日本国内では未だ大手ゼネコンや大手設計事務所以外への導入が進んでいません。
なぜ日本では導入が進まないのでしょうか?
例えばアメリカでは、日本の国土交通省に相当する公的機関でもあるGSAが、ガイドラインを発表し、BIMによる3Dデータでの納品を規定しています。
シンガポールの例を出すと、シンガポールでは意匠・構造・設備のBIMデータの提出が義務です。
この様に、海外ではBIMの導入が国の主導で推し進められています。
しかしながら、日本国内では2014年に国土交通省からBIM導入促進を目的としたガイドラインが発表されただけで留まっているのが現状です。
国の主導による促進が進んでいないだけでなく、BIMに関する知識・理解が、建設業の底辺にまで広がっていないことも、BIM導入を遅らせている要因と言えます。
3DCADとは何が違う?
BIMを正しく理解できない要因の1つに3DCADの存在があります。
最終的に3Dモデルを作成し、視覚的にその形状を把握するだけのものという認識が、BIMの有用性への理解を遅らせていると言えるでしょう。
では、3DCADとBIMには、どのような違いがあるのでしょうか?
作業工程が違う
3DCADでは、最初に2次元図面を作成します。
その情報を元に、3Dモデルを作成し、視覚的に形状の把握が可能です。
一方、BIMは3Dモデルを先に作ります。
その後、作られたモデルの断面を切り出して2次元図面を作成するのです。
打ち合わせが違う
発注者の多くは、建築施工についての知識がありません。
その為、図面を見ただけでその形状を把握することが困難です。
このような方に対し、図面だけを示して打ち合わせをするのは時間がかかります。
3DCADでは3Dモデルを使って、その形状をお互いに認識しながら打ち合わせをすることが可能です。
しかし、その場で形状を変更し、発注者の理解を得ることまでは出来ません。
一方BIMでは、3Dモデルを直接修正することが出来ますので、発注者と打ち合わせをしながら、その希望をその場でデータに取り入れ、形状を確認することが出来ます。
データ活用の幅が違う
3DCADで作れるのは、3Dモデルと各種2次元図面のみです。
これに対し、BIMでは3Dモデルから各種2次元図面を作り出すだけでなく、資材の発注書、見積書、確認申請書類など、様々な資料を作り出すことも出来ます。
この様に、BIMと3DCADには様々な点で違いがあるのです。
導入のメリットとデメリットは?
ここまでのことから、BIM導入にはメリットしかない様に思えますが、デメリットはないのでしょうか?
BIM導入のメリット・デメリットについて整理してみましょう。
BIM導入のメリットは?
前項でも挙げたように、BIM導入には多くのメリットが有ります。
- 作業効率の向上
- ミス軽減
- 修正漏れ防止
- 施工ミス・施工不良の軽減
- ワークフローの一元化
- 各部門での情報共有が可能
- 打ち合わせ時間の短縮
- お互いに同じ形状を理解できる
- 建築知識がない方にも、判り易く説明が出来る
- 打ち合わせの場で形状変更が可能
- コスト削減と売り上げ向上
ざっと上げただけでも、これだけ多くのメリットがあるでしょう。
BIM導入のデメリットは?
ではBIM導入のデメリットはどうかというと、実はまだまだたくさんあります。
- 導入コストが高い
- 本体価格が高い
- 必要台数を導入するには、高価すぎる
- 専用のパソコンの準備が必要
- 操作できる人員の確保が難しい
- BIM専任の人員を教育する必要がある
- 学校教育が遅れている
- 複数人で使用する場合、システム構築が必要
- 使用開始前に資材などのデータベースを構築する必要がある
- 構築するための人員を割けない
BIMはメリットもデメリットも多くあるので、どちらもしっかりと把握してBIM導入を判断することが必要です。
まとめ
BIMは導入し使いこなすことが出来れば、確実にミスの軽減・コストの削減・売上向上・作業効率の向上が可能です。
建設業で製造業の様にBIMを広げるためには、まだまだ多くの課題が残っています。
しかしながら、建築業界でお互いに協力し合えることが出来れば、導入促進につながっていくことでしょう。