東北大学大学院工学研究科修士課程修了。
銀行勤務を経て、現在はWebメディア制作や運営に携わる。
昨今、さまざまな業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められており、とくに建設業界は業界特有の課題から、導入が期待されています。
「建設業界は現場仕事だし、ITを活用するのは難しいでしょ…」
「ITを導入するとコストがかかりそうだし、今はまだいいかな…」
そう思っている企業幹部のみなさんも多いのではないでしょうか?
しかし、現場仕事だからといってIT導入を無視しつづけていると、今後ほかの業界から取り残されてしまうかもしれません。
そこでこの記事では、建設業界の課題をDXの力で改善したい方向けに、建設DXの導入事例や建設業界の課題を解説していきます。
この記事を参考にして、建設DXについて理解を深めていただけると幸いです!
目次
建設DXとは?
建設DXとは、これまでの建設業のやり方を、AIやIoTなどの先端技術を活用して変革することを指します。
デジタル技術を取り入れることによって、今までの業務プロセスや生産性を最適化し、人手不足の改善や最適な業務フローを構築することが目的です。
ここからは、建設とDXについて深掘りして解説していきます。
DXってなに?
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略語です。
DXは、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、現在は「IT技術の浸透は人々のあらゆる生活をよい方向へと変えること」という意味で使われています。
建設業との関係性
さまざまな業界でDXが推進されていますが、建設業は少子高齢化や、いわゆる”3K”のイメージに伴う人手不足が顕著であり、DXによる課題改善が重要テーマとして求められています。
近年では、大手企業が中心となってDX化に乗り出してきており、会社の重要プロジェクトとして行う、大規模なDX化の事例も生まれはじめてきました。
DXの類義語
ここまで、DXの概念について紹介してきましたが、その概念や言葉と似た意味でつかわれるものがあります。
ここでは、DXの類義語について、いくつか紹介していきます。
IT化
IT化はツールやシステムを導入し、業務の効率化やコスト削減を目指す取り組みを指します。
それに対してDXは、IT化の先にある根本的なシステム変革や、既存ビジネスモデルの脱却を目指すという違いがあります。
両者は似た概念に思えますが、その目的にははっきりとした違いがあるので、どちらを目指していくのかしっかりと区別しなければいけません。
CX
両者は混同して認識されがちですが、目的には明確な違いがあります。
CX(カスタマーエクスペリエンス)は、直訳すると「顧客体験」という意味で、商品やサービスにおいて、顧客が購入検討から購入後のサポートまで、主に購入したもの以外の体験を指します。
ICT
ICTとは、Information and Communication Technology(情報通信技術)の略語で、通信技術をつかったコミュニケーションのことです。
私たちの身近なものにもICTの技術が使われており、代表的なものだとスマートフォンやタブレット、ATMなどが挙げられます。
IoT
IoTとは、Internet of Things(モノのインターネット)の略語で、従来インターネットに接続されていなかった様々なモノがインターネットによって接続する仕組みのことです。
現在では、車や家電製品など、今までインターネットに接続されていなかったものがIoTされてきています。
建設DXが注目される背景とは?
昨今、様々な業界でDXが注目されていますが、とくに建設業は注目度の高い業界です。
ここでは、建設DXが注目される背景について、くわしく紹介していきます。
コロナウイルス流行によるオンライン需要拡大
2019年末ごろから世界で流行しはじめたコロナウイルス流行により、急速にビジネスのオンライン化が進められてきました。
多くの企業がテレワークを導入し、社員間のコミュニケーションもチャットやオンライン会議が中心になってきています。
そのなかで、現場作業が中心だった建設業界も、オンライン業務を取り入れながら、今までどおりの成果をあげられるのかが重要課題に挙げられています。
建設業界の課題改善
建設業界の大きな課題に挙がるのが、慢性的な人手不足や後世の技術伝承問題です。
総務省が2022年6月に行なった労働力調査によると、建設業の労働人口は年々減少傾向にあり、2022年6月現在では464万となっています。
少子高齢化が進む日本では大幅な労働人口の増加が見込めないため、少ない人数で業務を行うほかありません。
建設業界の主な課題については、後述で詳しく紹介していきます。
2025年の壁
2025年の壁問題も懸念のひとつとされています。
2025年の崖とは、経済産業省が「DXレポート」にて提出した、既存のITシステムの課題を各企業が克服できず、DXを推進できなかった場合、2025年以降に発生が懸念される巨大なリスクのことです。
このレポート提出以降、日本企業においてもDXを推進する取り組みが増えましたが、本格的にDX導入に踏み切っている企業は多くありません。
2025年問題から見える日本の現状とは?
では、2025年問題から、日本企業にはどのような課題があるのでしょうか?
ここからは、2025年問題から見える日本の現状を紹介していきます。
DXを進められる人材の不足
DXを進めるためには、専門知識を持った人材が求められます。
しかし、現在企業の多くを占めているレガシーシステムの運用は、ベテランのエンジニアや外注に頼る場面が多く、新しい人材を採用するのも容易ではありません。
また、社内で教育を行おうにも、人口減少による社員の減少や、社内の教育ノウハウ不足によって難しいのが現状です。
既存システムの老朽化
現在企業の8割がレガシーシステムを使用し続けているといわれています。
新システムに移行しようとしても、システムの肥大化や複雑化によって、既存のシステムを熟知している人材が不足しています。
システムにくわしい人材の不足が足かせとなり、思うように移行できていないのが現状です。
経営陣の知識不足
日本の多くの経営陣が高齢化してきており、最新技術への知識不足からDXを進められない場合も多くみられます。
経営陣の多くは大きな問題が起きない限り、既存システムを継続して使用する考えがつよく、DXを進める足かせとなっています。
DXを進めるためのコスト不足
DXを進めるためには、一時的に膨大な費用が必要です。
新システムに移行する場合、新たに専門知識のある人材を採用するか、社内で人材を教育することになりますが、どちらも膨大なコストがかかります。
また、近年は日本の景気後退により金銭的に余裕のない企業が多く、なかなか新システムの移行に踏み切れない事態に陥っています。
新しい技術への対応遅れ
海外ではGAFA(Google、Apple、FaceBook、Amazon)をはじめとする企業が次々にDXを進めていますが、日本は90%近くが既存システムの保守・運用の費用に充てられており、新しい技術の対応が遅れています。
こうした日本企業特有の体質からも、最新技術を取り入れられない要因となっているようです。
建設業界の特徴
建設業は主に屋外の作業が多く、クライアントの要望に応じて構造物をつくる作業形態です。
そのため、単純作業が多い製造業などに比べ、機械化による業務の効率化が難しいとされています。
また、業界の構造がピラミッド型下請け構造になっており、主に下請けが現場業務を担っている場合が多いです。
元請けがDXを進めたとしても、下請けが対応できなければDXの効果を発揮できません。
ここからは、建設業界がかかえる課題について深掘りして紹介していきます。
高齢化と慢性的な人手不足
日本建設業連合会の「建設業ハンドブック2021」によると、
建設業就業者数は1997年(685万人)をピークとして減少が続いており、2020年はピーク時比71.8%の492万人。そのうち、建設技能者はピーク時(1997年464万人)比69.2%の321万人であるとされています。
また、建設業就業者の年齢内訳を見てみると、2020年には55歳以上が36%、29歳以下が約12%と、他業界と比べて高齢化が著しく高くなっていることがわかります。
このデータから、建設業の業務維持には若年者の入職促進と定着による円滑な世代交代が不可欠であるといえるでしょう。
低い労働生産性
日本建設業連合会の「建設業ハンドブック2021」より、
建設業の労働生産性は2012年を底に上昇傾向にありますが、他業界と比較するときわめて低いことがわかります。
主に顧客ごとに構造物が異なるためマニュアル化が難しいことや、手作業が多いことが建設業の労働生産性が上がらない原因といえるでしょう。
長時間労働
こちらも日本建設業連合会の「建設業ハンドブック2021」より、
実は、日本の労働時間はここ10年間で減少傾向にあります。
建設業界においても年々減少していますが、他業界と比べると依然として高い数字になっており、月の平均残業時間は50時間を超えるともいわれています。
短納期の作業や人手不足に加え、業界全体で長時間労働を容認する風潮があり、建設業界で長年抱える課題のひとつです。
建設DXは進めるべき?
ここまでDXの概要と建設業の現状について解説してきましたが、建設DXは進めるべきなのか気になりますよね。
そこでここでは、建設DXのメリットとデメリットを紹介していきます。
本格的にDXを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください!
建設DXのメリット
建設DXを進めることのメリットとしては、主に以下のものが挙げられます。
・人手不足の解消
・次世代への技術継承
・業務の効率化
・安全性の向上
ひとつずつ解説していきます。
人手不足の解消
例えば、人手をつかって行なっていた運搬や設置作業を遠隔で行えるようになれば、少ない人数で現場をまわすことができます。
また、現場の確認作業や事務所で行っていた事務作業は、DXによって現地に行く必要がなくなるため、一人あたりの人件費削減にもつながります。
次世代への技術継承
建設業界の大きな問題となっている次世代技術の継承問題も、建設DXの導入によって改善が可能です。
熟練の技術をAIに覚えさせたり、社内でデータを共有することで管理コストの削減にもつながります。
また、どうしても感覚的になりがちな指導は、一連の作業をマニュアル化することによって、どんな社員でも技術を覚えやすいというメリットもあります。
業務の効率化
建設DXの導入は、業務の効率化にも役立ちます。
現場作業で使用する図面をシステム上で作成できれば、大幅な事務作業の削減につながります。
さらに、顧客管理や作業日報などを一括クラウド化することにより、業務システムの管理コストを効率化することも可能です。
安全性の向上
建設業は高所作業や重い荷物を運搬する業務など、他業界に比べて圧倒的に事故のリスクが高いです。
そこで作業を機械化することにより、危険な作業を人間が行う必要がなくなるので、従業員の安全確保につながります。
建設DXのデメリット
反対に、建設DXを進めることのデメリットとしては、主に以下のものが挙げられます。
・専門人材の採用・教育が必要
・初期費用やランニングコストがかかる
・社内体制を調整する必要がある
・経営戦略が立てづらい
ひとつずつ解説していきます。
専門人材の採用・教育が必要
DX化を進めるにあたり、専門人材の確保はかかせません。
ただし、建設業の場合は専門のIT人材を配置していない場合も多いので、大幅な採用コストの増加が予想されます。
新たに採用を行わない場合は、新たに専門部署の立ち上げや配置転換を行い、社内人材を教育する必要が出てくるでしょう。
初期費用やランニングコストがかかる
建設DXを進めるにはITツールなどを新たに導入する必要があるため、膨大な初期費用がかかります。
また、効果が出るまでに時間がかかる場合が多いので、その間のランニングコストも必要になるでしょう。
経営陣はあらかじめ予算を予想しておいて、適切な運用をしていく必要があります。
社内体制を調整する必要がある
DXはこれまでの社内システムから一新するため、社内への通知や社員の理解が必要です。
また、新たに人材を採用してくる場合もあるので、部署や役職の調整も必要になってくるでしょう。
短期的な人材配置ではなく、長期的な目線で人材を配置していくことが大切です。
経営戦略が立てづらい
DX化は今までにない新たな取り組みになるため、経営戦略が立てづらいデメリットもあります。
経営陣は普段からITを専門にしているわけではないので、DXがどのようなメリットを会社にもたらすか予想しづらいところがあります。
DXを成功させるには、経営陣もある程度のIT知識が必要になってくるでしょう。
建設DXの導入事例
建設業界のDX化は、他業界に比べてまだまだ遅れている状況ですが、すでにDXを活用しはじめている企業もあります。
ここからは、建設DXの導入事例をいくつか紹介していきます。
これから導入を検討している方は、ぜひ自社の状況と比較してみてください!
株式会社奥村組
株式会社奥村組は、主に業務基盤としてのBIM活用を行っています。
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、コンピューター上に現物と同じ建物のモデルを作成して、建築の設計や施工に活かす取り組みのことです。
BIMを導入することによって、設計・管理の手間が減り、施工のシミュレーションも容易に行うことができます。
参照:(http://www.okumuragumi.co.jp/environment/dx/data/20220722_okumuraDX.pdf)
清水建設株式会社
清水建設は、「DX銘柄2021」に選定されるなど、DXへの取り組みが高く評価されている企業です。
「ものづくりをデジタルで」「ものづくりを支えるデジタル」「デジタルな空間・サービスを提供」の3つのコンセプトを柱とする、中期デジタル戦略2020「Shimz デジタルゼネコン」を策定し、19~23年度の5年間の中期経営計画でデジタル投資を行っています。
すでに、自社で建物を一括管理するプラットフォーム「DX-Core」を開発し、オフィスビルなどで実装をはじめています。
参照:(https://www.shimz.co.jp/solution/tech373/)
ダイダン株式会社
ダイダン株式会社は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選考している「デジタルトランスフォーメーション銘柄2020」の一つに選出された企業です。
ダイダンのDX戦略のなかでも、代表的なものにクラウド型ビル監視制御システム「REMOVIS(リモビス)」があります。
REMOVISはクラウド上でビルの管理を行えるシステムで、現地に直接行かなくてもビルの状況を確認できるのが特徴です。
参照:(https://www.daidan.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/4f1441fdab4cfc73ce0c55e9e2e35b69.pdf)
戸田建設株式会社
戸田建設は、DX実現に向けての取り組みを4つのActioに分け、段階的な実現を目指しています。
具体的には、組織・人・そしてモノをデジタル情報を介してつながりをもたせることによって、質の高いサービス提供を行う取り組みです。
現在は、計画・調査・設計段階から3次元モデルを活用したBIM/CIMを積極導入し、管理システムの効率化と高度化に取り組んでいます。
参照:(https://www.toda.co.jp/pickups/mirai_dx.html)
建設DXで用いられる技術
つぎに紹介する技術は、他の業界でもDXを進める上でかかせないものばかりですが、建設業ではどのように活かせるのでしょうか。
ここでは、建設DXで用いられる技術をいくつか紹介していきます。
AI(人工知能)
AIは、画像認識や音声認識、言語処理機能など人間の思考の一部をシステムによって再現する技術です。
設計業務におけるデザインや建築計画の立案、建築現場の進捗管理などにAIが用いられています。
AIの画像認識を活用した弊社の事例は、こちらの記事を参照ください↓↓
SaaS(クラウドサービス)
クラウドは、インターネット上の仮想サーバーで、システムやデータをやりとりできる仕組みのことです。
インターネットにつなげればどこにいても利用することができるので、作業データや日報などを事務所と現場で共有することによって、コストの削減につながります。
ドローン
ドローンなどの撮影技術は、建設業界ではとくにかかせないものになります。
例えば、高所や狭い場所など人間では危険な場所の作業チェックや、測量などに用いられることが多いです。
また、ドローンで撮影したデータをクラウドで共有することもできるので、多様な使い方ができる便利な技術です。
ドローンの具体的な活用事例については、こちらの記事で解説しています↓↓
3次元モデルデータ
先ほども少し紹介した、「BIM/CIM」や国土交通省が建設業界の生産性向上のために、ICTを取り入れた新しいプロジェクトである「i-Constructio(アイ・コンストラクション)」の基礎となるのが3Dモデルデータの活用です。
3Dデータを使って構造物の設計・計画を行うことで、より詳細に構造物のつくりや質感を確認することができます。
5G
5Gとは、次世代移動通信規格のことです。
5Gは前身の4Gと比較すると、超高速で大容量の通信が可能になり、同時に複数の機器接続も可能です。
5Gの導入は、DXを進める上で現場の状況がリアルタイムで把握できないということがなくなるので、現場側と管理側の齟齬をなくすことにつながります。
5Gの浸透における生活や産業、建設業の変化については、こちらの記事で解説しています↓↓
まとめ:建設DXを進めている企業はまだ少ないが、建設業界の課題解決には必要!
建設業界のような現場仕事でも、DXを進めることによって課題解決につながることがお分かりいただけたでしょうか。
現在、建設DXを進めている企業は一部の大企業が中心ですが、業界の成功事例が増えれば、今後多くの企業でDXを進める動きが予想されます。
DXの波が来た時に乗り遅れないためには、今から会社全体で課題を洗い出し、本格導入に向けた準備をしておくことが必要といえるでしょう。
てつまぐでは、建設DXの一つとして、弊社で行ったAIの活用による業務効率化の方法を紹介しております。ぜひご参照ください↓↓