横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
建築業では「アンカー」という言葉がよく登場します。
よく耳にするのは、「あと施工アンカー」や「アンカーボルト」「ケミカルアンカー」といった建築物の改修工事の際に使用する「アンカー」ではないでしょうか。
しかしながら、鉄筋工事の「アンカー」はこのようなアンカーとは異なった意味を持っています。
この記事では、鉄筋工事におけるアンカーについて解説していきます。
目次
鉄筋工事について
アンカーの説明に入る前に、まずは、鉄筋工事の特徴についてみていきます。
鉄筋工事は自由度が高い
鉄筋工事は自由度が高く、施工方法や鉄筋の加工方法が会社や人によって変わることが多々あります。
多種類の鉄筋部材を組み立てる際は、定着長さや圧接の位置関係などの建築基準法を満たしていればどんな長さの部材を使っても良いのです。
鉄筋はどんな形にも加工することができるので、極論、一本のものすごい長い鉄筋を使い、それを加工して建物の基礎を作成することもできるかもしれません。
しかし、運搬や揚重の問題があって、実際はプラモデルの部品のように多種類の鉄筋を加工し、工事現場で組み立てることが必要になります。
できるだけベースや柱や梁の種類が少なく、単純な設計の工事であればあるほど鉄筋加工部材の種類も少なくなり、工事の施工性も容易になるので、打合せの段階で「より単純な設計にならないか」協議をすることも重要なポイントになります。
人材不足が大きな課題になっている中、単純な構造設計を採用したユニット工法(事前に工場で基礎を作成し、工事現場ではクレーンで揚重して設置する)が多くなっており、国交省もこの工法を推奨しています。
一見コストダウンが大きく見込める工法かと思いがちですが、クレーンの費用が多くなるデメリットがある為、工事規模を考慮した費用対効果を見定めることが重要です。
鉄筋工事業者は施工性を一番重視する
鉄筋工事業者が一番重要視するのは、間違いなく工事の施工性です。
「どうすれば施工しやすいか」「どんな部材を使用すれば施工しやすいか」「図面ではこういう設計になっているけど、このように変更できれば楽に施工できるのに」
施工管理の職務は、安全の確保だけではなく、鉄筋工事業者のような専門工事業者の効率性をいかに高めるかが大きなポイントです。
鉄筋工事業者の詳しい作業内容を把握することは、工程表通りに工事を進めていくことにおいて重要なことであり、施工効率性の高い設計であれば工事粗利率も高くなります。
鉄筋業者が使用する業界用語を理解することは、効率の良い工事の進行のために重要なことだと考えます。
アンカーとは?
では、鉄筋工事におけるアンカー、鉄筋業者が使用するアンカーの意味合いについて見ていきましょう。
鉄筋工事におけるアンカーとは定着のために曲げた部分をいう
鉄筋を使用する構造物は一体式構造です。
一体式構造における鉄筋は、地震発生の際にその水平力を他の主要部材(梁・柱・耐力壁)に伝搬させる構造部材であり、各主要部材を一体化させるために定着長さを取る必要があります。
定着長さを確保するために、柱や梁の部材を片アンカーや両アンカーに加工しています。
付けアンカー
上記で述べたように、鉄筋業者は施工性を考慮した鉄筋部材を使用します。
例えば、写真のスラブの立上り壁のコーナー部分を見てください。
付けアンカーを使用しない場合は、コーナー部分の鉄筋部材を直角に加工し、コーナー部分を配筋の始点として開始します。
一方付けアンカーを使用する場合は、立上り壁に定尺材を使用し、定着長さ分の働きを確保したアンカーを加工して取り付けます。
どちらが施工しやすいのかは、実際に施工を担当する方とよく相談しながら進めていきます。
「壁のコーナー部分は付けアンカーで良いか」と鉄筋工事業者から質疑が来た際は対応できるようにしましょう。
まとめ
この記事では、鉄筋工事ならではの「アンカー」の説明を行いました。
鉄筋工事の「アンカー」は他のアンカーとは異なった意味を持っています。
適切に理解して、日々の業務に活かしましょう。