横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
上のグラフをご覧ください。
全産業と製造業、建設業それぞれの「年間総実労働時間の推移」と「年間出勤日数の推移」を表したものです。
2007年度から2016年度までの情報ですが、他の産業から見て300時間以上も年間の労働時間が多いことが分かります。日数にして実に42日間です。年間出勤日数においても、どの産業より29日も多く出勤していることが分かります。
そして、他の産業では2007年に比べ2016年では大幅に労働時間数を減らすことに成功しているのに対し、建設業では労働時間数においてはわずか9時間しか減少させることが出来ていないのです。
では、なぜ建設業では短時間労働を実現させることが出来ないのでしょうか?
この記事では、建設業界で長時間労働が無くならない原因について考えていきます。
目次
長時間労働の原因とは?
一般的に、長時間労働の原因として以下の様なことが考えられます。
- 繁忙期
- 無理なスケジュール
- 人材不足
- 作業の非効率
これらの原因は建設業にも当てはまるのでしょうか?
原因1.繁忙期
このグラフは、公共事業の発注時期を表したグラフです。公共事業の予算組が行われるのが4月からで、おおよそ決定するのが6月頃です。
その後、工事の計画が進み、発注されますので、どうしても夏以降、年度末に向けて発注が集中する傾向にあります。
繁忙期にはいくつもの工事を抱えることとなりますので、1人の作業員が抱える仕事量が増え、長時間労働となるのです。
原因2.無理なスケジュール
上のグラフをご覧ください。元請負人による下請負人へのしわ寄せを表したものです。
これによると、「きわめて短い不適切な工期の設定」が1割ほどあることが分かります。
これは、発注者から元請けに対し提示しているスケジュールに起因していることが考えられます。
例えば、マンションや商業施設の工事の場合、オープン日が既に決まっていればそれを変え得ることは出来ません。
そのため工事が遅れたとしても何が何でも竣工日を守らなければならず、必然的に無理な工事期間で工事を行うこととなってしまいます。
原因3.人材不足
工期に無理があっても、それを補うだけの人員がそろっていれば問題はありません。ですが、建設工事を担う技能者の数が足りていないのも現状なのです。
上の表を見て頂くと判る通り、建設業界に入ってくる人材が全産業の1割にも満たないことが分かります。しかも、折角新卒者を雇用しても3年目までに約半数が辞めていっているのです。
その結果、上のグラフの様に若年技術者が圧倒的に足りないという状態となっているのです。
若年層が定着しない原因は?
若年層が定着できない原因として、以下の問題があります。
- 収入が低い
- 仕事がきつい
- 休日が少ない
- 作業環境が厳しい
- 社会保険等福利厚生が未整備
特に収入面だけを見るとかなり厳しい現実があります。
このグラフは、製造業の生産労働者と建設業の生産労働者それぞれの年代別賃金(年収)を表したものです。
定年退職を迎える60歳代になるまで建設業が製造業を追い抜くことはありません。全ての年代において賃金が低いことが分かります。
仕事がきつくても、労働環境が厳しくても、休日が少なかったとしても、それに見合うだけの収入が見込めるのなら、若年層も頑張って仕事をするでしょう。
ですが、賃金という見える形で報われなければ、頑張って仕事をしようという気にはなれません。
原因4.作業の非効率
作業量が多くても、例え短納期だったとしても、作業効率が良ければそれほど長時間労働となることはありません。
ですが、他の産業、特に製造業に比べ建設業界ではまだまだIT化すら進んでいないのが実情です。
例えば、設計部門で使用されるCAD。製造業では工業高校で3DCADの操作を教えており、個人経営の下請けをしている工場でも高性能な3DCADが導入されているほどです。
対して建設業界ではどうかというと、工業高校では2DCADがやっとです。個人経営の建設業では3DCADどころか、2DCADすら導入できていないのです。
製造業で導入されている3DCADは建設業で使われるBIMと同程度の性能を持っており、それが末端にまで行き渡っているのです。
しかも、人材育成まで進んでいますのでパソコンを使った工程管理、作業管理も行えるのです。
最新技術の導入
工事現場でも、最新技術を積極的に導入できれば作業効率を上げることが出来るでしょう。ですが、賃金を見て頂いてもわかる通り、最新技術に投資できるだけの資金が末端にまで行き渡っていないという事実もあります。
長時間労働の原因は建設業界が抱える課題
長時間労働の原因を検証すると、建設業界が抱える課題だということが分かります。
これらの課題を解決できれば、建設業界でも短時間労働を実現できることでしょう。
今回この記事で使用したグラフなどの資料は、国土交通省社会資本整備審議会基本問題小委員会で使用されている資料です。この委員会では、建設業界が抱える様々な課題の改善策を提言しています。
次の記事では、この提言を基に長時間労働軽減の対策について解説していきます。