横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
昨今では各企業が副業を解禁したりと、さまざまな試みが注目される中で、依然として副業を認めないものとしている一部の会社もあります。
今回取り扱う小川建設事件は、「副業をしたいけど会社が許してくれない…」そのような葛藤を抱える人にとって少しでも学びになるような判例なのではないでしょうか。
目次
「小川建設事件」について
小川建設事件(おがわけんせつじけん)は、一般土木建築工事業を営む会社に就労している労働者が、無断で二重就労していたことが知れ渡り、解雇処分を言い渡されたために起きた紛争です。
この事件のポイントは副業を行うにあたって、とても参考になる判例であるという部分でしょう。
小川建設事件の概要
小川建設事件(昭和57年11月19日)は『副業』という点で起こる議題の中でも、夜間のアルバイトにフォーカスした有名な判例です。
この判例では、建設会社(一般土木建築工事業)で一般事務員として就労していた労働者(8:45~17:15の間に勤務)が、夜間に“キャバレー”の会計業務も兼業していたことで、その労働者が解雇されたことから始まりました。
- キャバレーとは1960~1970年代、時間制の料金でホステスがさまざまなステージやショーを行う飲食店です。業態が大衆化すると、「おさわり」などのサービスを伴う店舗も存在していました。
事件の詳細について
一般土木建築工事業を営む小川建設は、昭和55年2月25日に当該労働者を雇用。
その労働者は、社内外の電話連絡や本社と営業所間における通信事務、また、同社営業所内の書類整理などを含む一般事務作業を行っていました。
労働者の勤務時間は8:45~17:15で、副業の観点で言えば夕方や深夜・明朝にかけて十分な労働時間を確保できる状態です。
労働者は本業の仕事を続ける傍らキャバレーに勤務。昭和55年4月8日~5月15日までリスト係、同年6月10日には会計係として従事していました。
そしてキャバレーの勤務時間は18:00~00:00のおよそ6時間。
しかし、小川建設側にキャバレーへの二重就職が知れたため、昭和57年1月23日に内容証明郵便にて、「二重就職は会社就業規則第31条4項に該当するので懲戒解雇にすべきところを通常解雇にとどめる」として、1月25日には労働者へ通常解雇の意思表示を通達しました。
労働者側がこれに反発。
「解雇は無効である」と主張し、労働契約上の地位保全と、賃金支払の仮処分を求めて争うことになったのです。
裁判所は・・・
この事件で、企業側に無断で二重就職した労働者が、解雇処分を通告された背景には、裁判所側にどのような意思決定があったのでしょうか。
裁判所側の主張は下記の通りです。
法律で兼業が禁止されている公務員と異り、私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由な時間であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかしながら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく、したがって、同趣旨の債務者就業規則第三一条四項の規定は合理性を有するものである。
引用:労働基準判例検索-全情報
また、「債務者就業規則の規定は合理的」と結論付ける上で下記のように、“兼業の職務内容を告知する必要性”についても問いています。
本件債権者の兼業の職務内容のいかんにかかわらず、債権者が債務者に対して兼業の具体的職務内容を告知してその承諾を求めることなく、無断で二重就職したことは、それ自体が企業秩序を阻害する行為であり、債務者に対する雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価されうるものである。
引用:労働基準判例検索-全情報
まとめ
今回の判例で分かる部分をまとめてみました。
- 副業(兼業)を企業側が許可している場合、企業に対して無断で副業を行うことで、労働者側の不利になる可能性が高い
- 長時間の労働に関しては、企業への労務提供が不十分になりがち。精神的・肉体的な負担を考慮して、解雇される可能性も高い
企業側は副業によって発生する大きな社会的なリスクへの恐れや、ノウハウが外部に漏洩することで、社会的に提供できるサービスの価値が低下するなど、経営としての合理性を重んじることから、副業を良しとしない場合が多かったのです。
しかし昨今では、労働者が結果的に外部のノウハウを獲得・駆使することで大きく業務の効率上げていけるという生産的な意見もあり、そこに価値と魅力を感じる企業も多くいるのです。
今では当たり前になりつつある副業ですが、これからの時代は働き方にさらに大きな変化が起こっていくと言われています。
来たる時代の波に乗り切って行けるかは労働者次第です。
今一度ご自身のワークライフバランスを見つめ直すきっかけになる判例とも言えるのではないでしょうか。