横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
コンクリートは圧縮に強く、引張に弱いといった特徴を有しています。
鉄筋コンクリートは、引張に強い鉄筋をコンクリートと組み合わせることで、優れた耐力と変形性能を発揮させることができます。
今回の記事では鉄筋コンクリートの設計方法についてご紹介します。
目次
鉄筋コンクリートの基本設計
鉄筋コンクリート部材を設計するうえで、基本的な仮定を理解しましょう。
基本的な仮定は4つあります。
①平面保持仮定
②コンクリートの引張力は無視
③コンクリートおよび鉄筋は弾性体とする
④コンクリートと鉄筋の付着は完全でずれない
この4つの仮定に加えて、せん断破壊ではなく、曲げ破壊になっているかがとても重要なポイントになります。
平面保持仮定
異形棒鋼には、ふしとリブがあります。
ふしとリブがあることで、コンクリートと鉄筋との間の付着が増加し、部材に曲げ応力をを受けたときに、両者はずれを生じずに一体となって挙動することができます。
部材が曲げ応力を受けたときに、断面内でひずみが0となる位置が存在します。この位置では、圧縮力と引張力が釣り合います。これが、中立軸です。
鉄筋とコンクリートがふしとリブのおかげで一体となって挙動する時、コンクリートと鉄筋のひずみは、中立軸からの距離に比例するとされています。
これが、「平面保持の仮定」です。
コンクリートの引張力は無視
RC構造物は設計上、コンクリートに引張強度を期待せず、引張力はすべて鉄筋が負担します。
つまり、RCは「ひび割れを許容する」設計となっています。
コンクリートおよび鉄筋は弾性体とする
RC構造物として設計する場合は、鉄筋およびコンクリートとも「フックの法則」が成立するものと考え、応力度はひずみに比例すると考えます。
線形弾性状態であることが前提になり、鉄筋であれば、降伏しない範囲で考えることになります。
せん断破壊ではなく曲げ破壊
部材は荷重が作用すれば「曲げモーメント」と「せん断力」を受けます。
部材ごとにそれぞれについての耐力が決まっているので、どちらか小さいほうで破壊することになります。
つまり、部材によって、曲げ破壊するか、せん断破壊するかが決まることになります。
鉄筋コンクリートはひび割れを許容する設計とする
曲げ破壊する部材は鉄筋が降伏しながら変形するので、急激に耐力を失うことはありませんが、せん断破壊を起こす部材は急激に耐力が低下するので非常に危険です。
したがって、鉄筋コンクリート部材は通常、曲げ引張破壊型になるように設計されています。
主筋、配力筋とは?
鉄筋コンクリート部材に曲げ応力が作用した場合、鉄筋は引張力を受け持ち、コンクリートは、圧縮力を受け持ちます。
この時、引張力を負担するために配置される鉄筋が「主筋」となります。
「配力筋」は、主筋に直行し、応力の伝達をスムーズにする役割を果たしています。
「せん断補強鉄筋」は、せん断力の作用に伴う斜めひび割れの進展を抑制するものです。急激な部材の耐力の低下を防ぐ役割を担っています。
プレストレストコンクリートの特徴
プレストレストコンクリート(PC)構造というのは、基本的にはひび割れ(コンクリートの引張応力度)の発生を許容しない構造になっています。
PC構造に使用するPC鋼材に緊張力を加え、部材に軸圧縮力を与えることで、引張応力度の発生を抑えています。
鉄筋コンクリートは、引張力に対して鉄筋で抵抗しますが、多少のひび割れは避けられません。
一方、プレストレストコンクリートはあらかじめコンクリートの圧縮力を導入するため、ひび割れを生じさせないことが可能となります。
コンクリートにプレストレスを導入するには「PC鋼材」と呼ばれる高強度の鋼材を使用します。
このPC 鋼材は、一般に鉄筋に比べて5~6 倍の引張強度を有しています。
プレストレストコンクリートを作るためには、PC鋼材を引っ張って張力を与えた後にコンクリートと固定します。
引っ張られていたPC鋼材は元に戻ろうとするので、コンクリートに圧縮力が発生します。
曲げ応力を受ける部材の応力度計算「許容応力度設計法」
長方形断面の梁において、軸方向の応力がない場合かつ圧縮側の鉄筋を考慮しない場合の鉄筋コンクリート部材としての鉄筋の曲げ引張強度は以下のように算出されます。
1 2 3 4 5 6 7 |
σs=M/As*j*d σs:鉄筋の曲げ引張強度(N/mm^2) M:設計曲げモーメント(N*mm) As:鉄筋の断面積(mm^2) j:7/8 d:コンクリート部材の有効高(mm) |
このように算出された応力度が、それぞれの材料に対して設定された許容値を下回っていることを照査することになります。
これが「許容応力度設計法」の基本的な考えです。
ひび割れ発生モーメント
「コンクリートは引張強度を受け持たず、引張力はすべて鉄筋が負担するという設定になっている」と説明しましたが、実際には、鉄筋コンクリート構造物にひび割れが発生するまではコンクリートが引張応力を負担しています。
荷重が作用したときにひび割れが生じるかどうかは、設計曲げモーメントと次に計算するひび割れ発生モーメントを比較します。
「Mcより大きい場合はひび割れが発生する」「Mcより小さい場合はひび割れが発生しない」と考えると分かり易いです。
<部材のひび割れ発生モーメント>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 |
Mc=Zc(σbt+N/Ac) #コンクリートの曲げ引張強度 σbt=0.23*σck^2/3(N/mm^2) #断面積 Zc=b*h^2/6(mm^3) #コンクリートの圧縮強度 σck(N/mm^2) #軸力 N(N) #コンクリートの部材の断面積 Ac(mm^2) |
まとめ
鉄筋コンクリートの基本設計方法と鉄筋コンクリートの破壊形式、許容応力度設計法の基本的な考え方をご紹介しました。
日本は地震国であり、鉄筋コンクリートの研究は兵庫県南部地震や、東日本大震災などの想定以上の大地震を契機に研究が進められてきました。
鉄筋コンクリートの設計は安全上、破壊形態をせん断破壊ではなく曲げ破壊先行とすることは非常に重要です。
施工管理や建築士の資格取得に必須の内容なので、理解しておきましょう。