横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
2015年以降、海洋汚染やエネルギー開発などについて、国内外の個人や企業、団体などの取組がニュースで話題になっています。
この背景には、SDGsという世界的な開発目標があるからですが、さて、SDGsとは何のことなのでしょうか?
初めてSDGsという単語を聞いたという方もいるでしょうし、何となく聞いたことはあるけれど何のことかわからないという方もいるでしょう。
また、知っているけれど具体的に何をすれば良いのかわからないという方もいるかもしれませんね。
そこで、この記事ではSDGsの解説と、建設企業での取組事例をご紹介していきます。
目次
そもそもSDGsとは何なのか?
2000年9月、国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」と、1990年代の主要な国際会議で採択された国際開発目標を統合し、2001年に国連での議論を経て策定された「ミレニアム開発目標(MDGs)」というものがあります。
2015年までに8つの達成目標を掲げ、世界中で取り組んだ開発目標です。(上の画像参照)
日本でも、「特定非営利活動法人 ほっとけない世界のまずしさ」が中心となり、芸能人の間でもホワイトバンドを付ける方が増えたことで、一時話題になりました。
ですが、2015年に掲げた8つの達成目標は、すべてを達成することが出来ず、一部未達成意のまま終了となったのです。
そこで、2015年9月の国連サミットで、
「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会
を実現するため、2030年を年限とする17の国際目標が採択されました。
それが、「持続可能な開発目標(SDGs)」です。
このSDGsには建設業界としても無視できない目標もあり、企業として積極的に取り組む責任もあります。
持続可能な開発目標とは?
SDGsは簡単に言えば、多くの課題を抱えた人類が「持続可能な世界」を実現するためのナビゲーションです。
17項目の目標を掲げ、その目標を達成することで孫子の時代も住みやすい社会を維持することを求めているのです。
例えば、上の画像にあるように、昨今人々がその地域に住むことが困難となるような災害が多発しています。
日本国内でも、大震災が起こったり、ゲリラ豪雨や大型台風の直撃などがあったりと、災害が相次いでいますよね。
もちろん、これら気候変動だけでなく、海洋汚染などの環境汚染、ジェンダー差別などの差別や貧困など、世界には多くの問題が山積しているのです。
17の目標とその内容は?
17の目標は上の図の通りです。ですが、これでは目標内容が判りませんね。
目標の詳細は、以下の表の通りとなります。
目標 | 内容 |
---|---|
目標1 | あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせよう |
目標2 | 飢餓を終わらせ、全ての人が一年を通して栄養のある十分な食料を確保できるようにし、持続可能な農業を促進しよう |
目標3 | あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進しよう |
目標4 | 全ての人が受けられる公正で質の高い教育を完全普及を達成し、生涯にわたって学習出来る機会を増やそう |
目標5 | 男女平等を達成し、全ての女性及び女児の能力の可能性を伸ばそう |
目標6 | 全ての人が安全な水とトイレを利用できるよう衛生環境を改善し、ずっと管理していけるようにしよう |
目標7 | 全ての人が、安くて安定した持続可能な近代的エネルギーを利用できるようにしよう |
目標8 | 誰も取り残さないで持続可能な経済成長を促進し、全ての人が生産的で働き甲斐のある人間らしい仕事に就くことが出来るようにしよう |
目標9 | 災害に強いインフラ作り、持続可能な形で産業を発展させ、イノベーションを推進していこう |
目標10 | 国内及び国家間の不平等を見直そう |
目標11 | 安全で災害に強く、持続可能な都市及び居住環境を実現しよう |
目標12 | 持続可能な方法で生産し、消費する取組を進めていこう |
目標13 | 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じよう |
目標14 | 持続可能な開発のために海洋資源を保全し、持続可能な形で利用しよう |
目標15 | 陸上の生態系や森林の保護・回復と持続可能な利用を促進し、砂漠化と土地の劣化に対処し、生物多様性の損失を阻止しよう |
目標16 | 持続可能な開発のための平和的で誰も置き去りにしない社会を促進し、全ての人が法や制度で守られる社会を構築しよう |
目標17 | 目標達成のために必要な手段を強化し、持続可能な開発にむけて世界のみんなで協力しよう |
参照:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_navi.pdf
建設業界が積極的に取り組むべき目標は?
では、この持続可能な開発目標17項目のうち、建設業として取り組むことが出来るものはあるのでしょうか?
欲張ってすべての目標に取り組もうとすると、企業としての機能を失いかねません。
企業として、どの目標なら取り組むことが出来るのかといったことを考え、目標達成のために必要な取組を計画し、実施していきましょう。
建設業と17の目標
例えば17項目のうち、目標1、目標4、目標5、目標8を組み合わせ、年齢・性別に関係なく人材を雇用し、社内で教育するというのも、1つの取組です。
では、目標1つ1つを建設業として取り組めるのか、確認してみましょう。
目標 | 取り組み |
---|---|
目標1 | 適正な人事評価と適正な賃金の支払い など |
目標2 | 子ども食堂の運営、低価格の社員食堂の運営 など |
目標3 | 日雇労働者も含め、すべての労働者に健康診断を受診させる など |
目標4 | 新入社員への技術教育、子供への大工教室 など |
目標5 | 男性の育休、介護休業取得、女性役員の増加 など |
目標6 | 作業場、工事現場での男女別トイレの確保 など |
目標7 | 太陽光発電の促進、自然エネルギー導入の促進 など |
目標8 | 性別・年齢にとらわれない雇用促進 など |
目標9 | 耐震技術の向上、土砂崩れなどの防止対策 など |
目標10 | 男女不平等、年齢不平等、学歴不平等の廃止 など |
目標11 | 災害に強い家づくり、省エネルギー住宅 など |
目標12 | 100年住み続けられる家づくり、古民家再生 など |
目標13 | 災害対策のための技術向上 など |
目標14 | 海岸線のごみ拾い、プラスチック製品の削減 など |
目標15 | 植樹、地産地消による建材の確保、ビオトープ整備 など |
目標16 | 無理な地上げ、強引な開発を見直す、コンプライアンス意識の促進 など |
目標17 | 1社で取り組むのではなく、地域一体となった取り組み、学校との協力 など |
一部ボランティアとなる活動もありますが、建設業としてアイディアさえあればすべての項目で取り組むことが出来ますね。
例えば株式会社LIXILは、国際機関やNGOなどとパートナーシップを組んで、インフラ整備や衛生意識改革などの取り組みを実施したり、「みんなにトイレプロジェクト」を立ち上げ、LIXILのトイレ1台購入につき、簡易式トイレ1台を途上国に寄付をするといった取組を実施しています。
建設系中小企業の取組事例
先ほどは大手企業でもある株式会社LIXILの取り組みを一部ご紹介しました。
では、中小企業としてどのような取り組みが出来るのでしょうか?
ここでは、すでにSDGsの取り組みを始めている3社の取組内容をご紹介していきます。
株式会社新和建設
企業名 | 株式会社新和建設 |
所在地 | 愛知県北名古屋市 |
事業内容 | 注文住宅、リノベーション、古民家再生 など |
URL | https://www.sinwanet.co.jp/co_mame/c/241/242/ |
【取組内容】
- 豊かな緑を守る
- 地産地消の住まいづくりで自然を守る
- 東濃桧を構造材として使用
- 生産地でもある岐阜県白川町が実施する「カーボン・オフセット運動」を支援
- 山の大切さ、木の良さを伝える
- NPO法人「地球の会」に加盟
- 森林ツアーの開催
- 環境に優しい住まいづくり
- クリーンウッド法登録事業者
- 違法伐採の対策
- ISO14001(環境マネジメントシステム)の取得
- 環境にも人にも優しい住まいの提供
- 地産地消の住まいづくりで自然を守る
- いつも安心安全・快適な住まい
- 自然と寄り添う健康な住まい
- 珪藻土の壁、桧の無垢フローリングなど自然素材にこだわった家づくり
- 空気環境健康仕様「Air eat」採用
- 100年先も住み続けられる住まい
- 一年中快適でエコな住まい
- 自然と寄り添う健康な住まい
- 未来につなぐ住まいづくり
- 世代を超えて住み継ぐ
- 将来を見据えた省エネの住まい
- 未来につなぐ街づくり
- 木のぬくもりをいつも感じる先進の街
- プロフェッショナリズムの追求
- 創業から続く独自の大工育成システム
- 多様な研修制度で若い世代を育てる
- 社員全員で変えていく
- トップランナーとしての責務
- 未来の子供たちへ
- 子供大工アカデミーの開催
- 地元小学校で「元気環境教室」を実施
- 地域の皆様とともに
- 現場とその周辺の掃除と整理整頓
- メンテナンス講座の実施
- パートナーシップを組む
- NPO法人環境共棲住宅 地球の会
- ぎふの木の住まい協議会
- 東濃ひのきと白川の家 建築協同組合
- 濃飛建設事業者職業訓練協会
- 未来の子供たちへ
株式会社建設環境研究所
企業名 | 株式会社建設環境研究所 |
所在地 | 東京都豊島区 |
事業内容 | 建設コンサルタント |
URL | https://www.kensetsukankyo.co.jp/csr/sdgs |
【取組内容】
- 目標3と目標6の取り組み
- 環境計測
- 水質分析・改善
- 土壌汚染対策
- 環境計測
- 目標7と目標13の取り組み
- 自然環境
- 再生可能エネルギー
- 自然環境
- 目標9の取り組み
- 自然環境
- グリーンインフラ
- 防災・減災
- 水害・土砂災害対策
- 自然環境
- 目標11の取り組み
- 都市・地域
- 住民と連携したまちづくり
- 公園の計画・設計・維持管理
- 防災・減災
- 地域防災の支援
- 都市・地域
- 目標15の取り組み
- 自然環境
- 最新技術による調査
- 地域と連携した環境活動
- 自然環境
まとめ
SDGsの17の目標は、アイディア次第で建設業でも取り組むことが出来ます。
どの項目を取り組むかは、企業次第です。
例えば、海洋汚染を解消するために、地域の方たちと海岸線の清掃ボランティアをするとか、工事現場だけでなく、その近隣の清掃を定期的に行うとか、地域の小学校と連携してビルがどうやって出来ているのかなどを解説する授業を行うなど、出来ることは沢山あります。
まずは、17の目標の根底にある「問題」を理解し、それを改善するために何をすれば良いのかを考え、積極的に行動を起こしていきましょう。
何をすれば良いのか迷っているなら、すでにSDGsに取り組んでいる企業や団体などの「取組事例」を参考にしてみてはいかがでしょうか。