横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
事業主が事業を継続する中で、新たな販路を拡大するために必要なPR活動や、新商品の開発、作業効率向上のためのシステム導入や、機器導入などを行う際に係る経費を国が補助してくれる制度があります。
その一つが「小規模事業者持続化補助金」です。
この記事では、この制度の概要と、実際に申請して採択された事例をご紹介します。
目次
小規模事業者持続化補助金の目的と対象
先ずは、この「小規模事業者持続化補助金」の目的と受給対象となる事業者について見ていきましょう。
詳細は中小企業庁のHPをチェックすることが一番良いです。
以下の項目では、抜粋したポイントをご紹介していきます。
小規模事業者の支援が目的の補助金
「小規模事業者持続化補助金」は、小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更に対応するため、自ら作成した経営計画に基づく販路開拓等の取組を支援するものです。
「被用者保険の拡大」「賃上げ」などの制度変更に対応するために、販路の拡大を図ったり、生産性向上のための設備投資をしたりといったことに対し、それら事業に係る経費の一部を補助することで、地域の雇用・産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を図ることが目的の補助金になっています。
小規模事業者について
では、補助の対象となっている「小規模事業者」や「一定の要件を満たす特定非営利活動法人」とは、どのような事業者なのでしょうか?
この補助金の対象者は、以下の5つの要件をいずれも満たす日本国内にある小規模事業者等であることが条件となります。
業種別の従業員数で対象を判断する
小規模事業主とは、以下の表にある業種別の従業員数で判断します。
ただし、この従業員数に当てはまったとしても、補助金の対象とならない事業者等もあります。
詳細は、中小企業庁のHPを確認しましょう。
補助の対象となる経費と補助額は?
次に、補助の対象となる経費と補助金の額についてご説明します。
対象となる経費とは?
補助の対象となる経費は、次の3つの条件をすべて満たすものとなります。
1.使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
2.交付決定日以降に発生し、対象期間中に支払いが完了した経費
3.証拠資料等によって支払金額が確認できる経費
これら経費について、例えば対象事業を実施する期間中に、機器やソフトウェアを購入し、代金を支払ったとしても、実際にこの新しく導入した機器などを使用して、事業に取り組んでいない場合には、支払い対象経費にはなりません。
また、経費の支払い方法についても決まりがあります。
補助対象経費の支払いは、銀行振り込みが大原則となっています。特に、10万円超の支払は、現金支払いは認められていません。
クレジットカードでも支払いも、引落日が対象事業の期間中のみ認められます。
その他にも、細かい決まりがありますので、必ず「募集要項」を隅々まで確認しましょう。
補助額・補助率は?
【補助率】
補助対象経費の2 / 3 以内
【補助上限額】
50万円
ただし、以下の場合は上限額が変わります。
1.「認定市区町村による特定創業支援等事業の支援」を受けた小規模事業者
(ア)100万円」
複数の小規模事業者等が連携して取り組む共同事業の場合
2.複数の小規模事業者等が連携して取り組む共同事業の場合
(ア)1事業者当たりの補助上限額 × 連携小規模事業者等の数
(イ)500万円
採択率は約70%
採択の審査は、郵送された電子媒体を使って行われます。
採択審査は、基礎審査と加点審査があり、基礎審査は「要件を満たしているか」や「書類がそろっているか」といった基本的な部分のみを審査します。
重要なのは加点審査で、提出した「経営計画書」「補助事業計画書」の内容について審査をします。
評価の観点としては、その事業の有効性や適切性、妥当性です。
無理な計画を立てず、実行可能であることが重要です。
採択率は、平成31年度(令和元年度)の事業で平均70%ほどでした。
自力で採択を勝ち取る方法
さあ、ここからが本題です。
本補助金は、国の予算で適正な事業者に配布されるものです。
経産省などで公表されているその事業年度の予算は、どのような考えに基づいて確保されたものなのかをもう一度確実に把握しておきましょう。
国が定義している課題を解決する計画書を書く
何度も確認しますが、本補助金は、国の予算から(税金から)配布されるものです。
国の税金をありがたく使用できるわけなので、国が抱えている悩み/課題を解決する事業計画書を提出しなければ採択されません。
では、国が抱えている悩み/課題とはいったい何でしょうか?
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#事業の目的 小規模事業者および一定要件を満たす特定非営利活動法人(以下「小規模事業者等」という。)が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス制度 の導入等)等に対応するため、小規模事業者等が取り組む販路開拓等の取組の経費の一部を補助することにより、地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を図ることを目的とします。 本補助金事業は、小規模事業者自らが作成した持続的な経営に向けた経営計画に基づく、地道な販路開拓等の取組(例:新たな市場への参入に向けた売り方の工夫や新たな顧客層の獲得に向けた商品の改良・ 開発等)や、地道な販路開拓等と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取組を支援するため、それに要する経費の一部を補助するものです。 |
今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更とはつまり「増税」のことを指しています。
要は、「増税するけど、お金あげるからもっと効率よく商売してね!」といっているわけです。
なぜこのようなことをするのか?その大きな理由は少子高齢化です。
特に、建設業においては、就労人口の減少が深刻で、若年人材の確保と技術承継が問題視されています。
人口が減少し、さらに新型コロナウィルス感染症の影響で事業者が減ってしまうと、納税額も減少してしまうので国もこの問題に関しては非常に困っています。
設備投資にかける資金は補助してあげるから、その代わり事業を存続させてしっかり納税してね!といっているわけです。
国がこのような仕組みを用意している限り、補助金を最大限勝ち取って、今後に備えなければなりません。
実際に事業計画書を書いてみよう
補助金の背景が分かったところで、実際に申請書/事業計画書を書いてみましょう。
企業概要
まずは自社の概要を簡単に記載します。
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当社は○○年に創業した鉄筋加工と鉄筋工事一式を請け負うBtoB 型の建設会社である。 事務所・工場の面積は、それぞれ、○○m2、○○m2 である。 事務所・工場は一体化した建物になっており、○○工業団地に立地している。 従業員は○○ 名である。 内訳は、○○職が○○名、○○職が○○名である。 工場には、○○機が○○台あり、年間約○○個を生産している。 当社が製造している製品は、○○関連が○○%を占めている。 そのほとんどが、○○からの受注である。 #事業承継を考えている場合 弊社の現社長は積算から営業まですべてこなしているが、現在 ○○ 歳で高齢化してきている。 そのため、弊社は事業承継に力を入れている。長男は、大手商社に勤務していたが、今年の ○○ 月に当社に戻ってきた。商社では、○○に携わり、高いスキルを有している。 ○○期の売上高は○○である。 ここ ○○ 年間の売上高は順調に増加しているが、限界利益率は増減している。 売上高増加率<限界利益増加率<経常利益増加率が弊社の目標である。 |
採点するのは中小企業診断士です。
中小企業診断士の方に分かりやすく、「売上高増加率<限界利益増加率<経常利益増加率」が企業の理想のバランスだと認識していることを明記してあげます。
このバランスは所謂教科書通りの企業の理想バランスです。
ここの部分をもう少し具体的に記載し、定量的な目標を設定して頑張っている企業なんだという姿勢をアピールします。
さらに、人材確保が困難で、生産性の向上のために設備投資が必要である旨を記載します。
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弊社では近年、若手従業員の獲得を数名獲得しており、労務費が増加傾向にある。 労務費が増加することは問題ではないが、その増加率を上回る売上高を上げなければ将来的に規模の拡大は難しいと考えられる。 また、売上高増加率を上回る利益率を上げなければ会社は膨張するだけで、成長することはないと考えられる。 弊社では、理想の成長バランスを労務費増加率<売上高増加率<限界利益率<経常利益増加率と定義している。 しかし、○○期~○○期では、その成長バランスは崩れている。 当社は、取引企業がそれほど多くなく、また継続的な取引がほとんどであるため、新規取引先に関しては、既存取引先からの紹介がほとんどである。 既存取引先からは高い評価を受けているが、技能労働者の高齢化と減少により、新規取引先の案件を受注できないこともある。 早急に若手の労働者の確保が必要になっている。 |
企業概要はこれで完成です。
顧客ニーズと市場の動向
続いて、顧客ニーズと市場の動向を記載します。
ここでは、現状の顧客の状況について記載していきます。
過去3年間程度の売上高の内訳を分析し、どのような顧客の傾向にあるのか、そして今後はどのような内訳になりそうなのかを記載します。
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建設業では、工期が厳密に決定しており、工期内で提供するサービスの品質を高めなければならない。 しかし、熟練の技能労働者不足により、提供するサービスや商品の質の低下や工期の延長が発生することがある。 販路拡大(受注件数の上昇・売上高増加率の向上)をする際には、施工品質と施工スピードを高い水準で維持する必要があり、施工の機械化が必須になってきている。 建設用途別の受注比率は、○○の受注は安定的に推移しているが、その他は年度ごとにバラツキがある。 今後は○○の受注が増加していく見込みであるが、受注増加に対応できるように社内の体制を整える必要がある。 ○○年から○○年にかけて○○県や○○県だけではなく、○○や○○県などから仕事の依頼が増えている。 少しずつ対象エリアを拡大すれば、売上高を増加させる余地は十分にあり、事業エリアの拡大に伴い社内の設備投資が必要になると考えられる。 ○○期の取引先別売上高は、A 社○○千円、B 社○○千円、C 社○○千円、D 社○○千円、E 社○○千円、F 社○○千円となっている。取引先数は概ね○○社である。 |
続いて、市場の動向です。
ここは定番なので、以下のような定番内容を記載します。
参考資料は国交省や経産省、中小企業庁といった内閣府関連が公表している資料を使用すると良いでしょう。
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【高齢者の大量離職の見通し】 10 年後の2025 年には、技能労働者数は、約286 万人(2015 年比で44 万人減少)。建設市場規模の見通しを踏まえ、2025 年に必要な技能労働者数は、333 万人~379 万人と試算。両者で 47万人~93 万人の差分が生じる。 【建設現場の生産性向上】 測量・施工・検査等の全プロセスで ICT を活用することで、測量・施工などの作業を効率化、検査書類・日数を大幅に削減し、長期化労働の抑制や休暇の拡大などの実現が求められている。 【職場環境の改善】 若手・女性の活躍に地域ぐるみで取り込む活動への支援や、経営者向けの研修を通じて、若手・女性も働きやすい職場環境を整備することが求められている。 【競合他社の動向】 ○○株式会社は、○○といった最新の機械を導入し、低コストニーズを実現し、顧客満足度を高めている |
「低コストニーズ」という言葉について少し深堀りしてみます。
中小企業庁は、中小企業の理想的な企業戦略を「集中と選択」としています。
「集中と選択」とは、どの分野に集中し(建設業界でいえば、住宅に集中するのか、流通倉庫に集中するのか等)、そのうえで「低コスト」と「差別化」どちらで勝負するのかということです。
詳しく知りたい方は、中小企業庁のHPを参照してください。
中小企業白書の中には、中小企業を取り巻く環境と「付加価値」の必要性が明記されています。
どのようにこの「付加価値」を増大させるための経営戦略を考えればよいのか?のアドバイスをわかりやすく記載してくれています。
中小企業白書2020年版概要PDFより
自社や自社の提供する商品・サービスの強みはSWOT分析結果を記載
SWOT分析は定性的な自社分析手法です。
あくまでざっくりで良いので、強み/弱み/脅威/機会をまとめて記載します。
リンクのようにグラフを用いて表示しても良いと思います。
SWOT分析のやり方【エクセルテンプレート】プロジェクトの立案、選定の仕方
経営方針・目標と今後のプラン
上記の内容を基に、今後の経営方針と目標値を記載します。
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自社の強みである技術力やサービス力を活用し、事業エリアを○○県や○○県のみならず関東全域まで拡大させる。 機械設備等のハード面の改善はもとより、施工品質やアフターサービスの向上を推進し、他競合との差別化を図ることで新規顧客の固定化を進める。 |
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#目標値を表でまとめたうえで 【中期経営計画の策定】 経営理念・中期ビジョンの明確化(弊社が進むべき方向性の確認) 安定的収益体質確立に向けた中期損益径計画(モデル損益) キャッシュフローベースでの先行資金繰り表・中期資金計画表の作成 【収益構造改革】 積算方法の整備による市場や実際を的確に反映した見積り金額や工数の設定 適切な値決めを行ったうえでの価格交渉や付加価値の訴求による収益向上 財務構造の改編に向けた企業体制の構築 労務費増加率<売上高増加率<限界利益率<経常利益増加率の理想的成長バランスの達成 既存取引先から新規顧客を獲得するだけではなく、○○を利用して新規顧客を獲得していく。 【従業員の評価、育成制度の確立】 あるべき人材像の設定とそれに合わせた評価育成制度の設置 給与水準の見直し検討、従業員の適正人員数の配置 職場環境の改善 最新の機械設備を導入することで、労働生産性を向上させる。 |
補助事業の内容
最後に、今回導入する機械やシステムの概要を説明したうえで、それがどのように生産性向上に役立ち、いかに会社の目標達成に必要なのかを記載していきます。
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目標達成の為には、労働者不足が原因で、見積依頼だけで受注に至っていない案件の受注率を向上させる必要がある。 そのためには、技能労働者を確保することや属人的で非効率な作業を廃止し、生産効率を向上させることが必要になる。 当社の強みである○○を活用し、新規顧客を獲得するために下記の事業を実施する。 |
例えば、自動結束機を購入するという内容で記載してみましょう。
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結束機は、MAX社のRB-440T-B2CA/1440Aを導入する。 質量 :2.0kg サイズ:H265xW120xL330mm 鉄筋の組み立ての際に鉄筋同士を結束させる作業に関して、現在ではハッカーといわれる人的な道具を用いて作業している。 ハッカーを用いた人的作業は効率が悪く、1カ所を結束するのに約 4秒かかる。 一方で、結束機を使用した場合、1回の結束スピードは:0.7 秒以下(満充電時)となっており、人的作業の 5 倍以上の速さで作業が可能となる。 (具体例) 受注鉄筋 t数:100t、施工場所:鉄骨構造の 2F部分の床の鉄筋組立、現場担当が 10人の場合 人的作業(0.5t/人・日)の場合:必要日数は 20日 機械作業(0.7t/人・日)の場合:必要日数は 15日 期待効果:5 日間の工期の短縮、労働者単価を\10,000/人とすれば、\500,000 の労務費の削減 結束機の導入は 〇月上旬予定とする。 結束機を実際に装備して作業するのは、弊社若手職員の○○である。 鉄筋結束機の導入により、弊社の作業効率(鉄筋の組み立て作業の歩掛り)の向上が期待できる。 作業効率(鉄筋の組み立て作業の歩掛り)は、0.5t/日から 0.8t/日を目標にする。 #新たにHPを開設するなど、デジタル的な方法で販路拡大を狙う場合 作業効率を向上させることで、新たに開設するHPから獲得する新規顧客分の作業量を補う。 労務費増加率<売上高増加率<限界利益率<経常利益増加率の理想成長バランスの改善/成長バランスの改善を目標とする。 |
これで終了です。
おすすめの書籍1:「競争の戦略」M.E. ポーター, 土岐 坤他
おすすめの書籍2:「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」
まとめ
昨今、新型コロナウイルス感染症の影響で、経営が難しくなっている小規模事業主も増えています。
建築業界でも、中国からの建築資材の輸入がストップしたことで、工事を途中で止めなければならなかったり、着工を延期したりと、かなり影響を受けているようです。
今回ご紹介した「小規模事業者持続化補助金」は、そんな経営に行き詰っている事業者を支援するための補助金です。
新たな販路開拓や新商品開発など、経営持続のために必要な投資に対して補助してもらえます。
この補助金は自力での申請が十分可能です。
是非自力で採択を勝ち取って、自社の設備投資に活かしてください。