『姉葉事件』構造計算書偽造問題の真相と影響【なぜ起きたのか】

「姉歯事件」が昔ありましたが、どんな事件だったか覚えていますか?

結局真相はどうなって、どんな影響があったのかご存知でしょうか?

この記事では、

  • 姉歯事件の概要
  • なぜ姉歯事件が起きたか
  • 姉歯事件による影響

について書いています。

建設業界の人間として知っておかなければいけない問題ですので、じっくりご覧ください。

姉歯事件とは【いつ、どこのマンションで起こったのか】

姉歯事件とは、2005年11月に分譲マンションである『グランドステージ北千住』で発覚した構造設計の構造計算書偽装問題です。

国土交通省が公表して世間に注目を浴びました。

この姉歯一級建築士の構造設計に携わった他の物件でも同様の偽装が発覚しました。

その数はなんとマンション20棟、ホテル1棟です。

関係者としては建築主、設計者、下請けの構造設計、施工者、確認検査機関がいます。

建築主は(株)ヒューザー、設計者は(株)スペースワン建築研究所、その下請けの構造設計が姉歯建築設計事務所、施工者は木村建設㈱、確認検査機関はイーホームズ㈱でした。

姉歯事件の真相に迫る【なぜ起きたのか】

この事件はなぜ起きてしまったのでしょうか。

原因はさまざま考えられますが、それぞれが分担する手順や問題点などを見て、紐解いていきましょう。

設計費が赤字でも請けなきゃいけない【分譲マンションを建てる手順】

下請重層構造が深刻な建設業界において、設計事務所は設計費が赤字でも設計しなければいけない時があります。

分譲マンションを建てる際の一般的な手順は以下の通りです。

  1. 建築主(デベロッパー)が用地を手に入れる
  2. 建設費・設計費・販売費用などを試算する
  3. 設計、施工をしながらマンションを売る

建築主(デベロッパー)が売れそうな場所のマンション用地を取得したら、その土地の仕入れ値とその場所での予想分譲価格を想定してコストを試算します。

コストの試算は、まず自社の利益を取り置き、建設費、設計費、販売費用等を計算します。

実際かかるコストを事前に正確に見積もってから用地を取得することはしません。

おおよその費用は事前につかむにしても、まずはマンション用地を手に入れてみなければ計画は進まないのです。

ですから、用地を入手した時点で建設費、設計費の枠は決まっています。

設計者がすでに決まっている場合、日ごろの付き合いがあるために、赤字であっても仕事を受けざるを得ない場面が出てきてしまいます。

設計は分業制【構造のことは構造担当が見る】

分業・下請といった状況がコストや能力を圧迫したのでしょう。

姉歯元建築士は国土交通省の聴聞会で、「コスト削減の圧力を受けた」と語っています。

すでに赤字が確定している状況の中でも、設計者は少しでも赤字を減らすための設計を開始します。

設計の手順は以下の通りです。

  1. 意匠設計が大枠を決める
  2. 意匠設計をもとに構造設計、設備設計を行う(外注もあり)
  3. それぞれのすり合わせをする

今回の元請けである設計事務所、(株)スペースワン建築研究所のような小規模な設計事務所では、仕事はほぼ分業で行います。

スペースワン建築研究所は意匠を担当し、構造設計や設備設計は協力設計事務所(下請け)に任せる形です。

今回は(株)スペースワン建築研究所が意匠設計を担当し、構造設計の外注先として姉歯一級建築士が構造設計をしました。

下請が行う構造設計によって、全体のすり合わせを行いながら設計が出来上がっていきます。

構造計画によって柱の太さも壁の厚さも、その中に入る鉄筋の量もコンクリートの量も質も変わります。

そのため、構造設計により建設コストが大きく変わるのです。

このような流れの中、姉歯一級建築士は構造計算書を偽装しました。

その結果、鉄筋不足し、構造物の耐震強度が建築基準法に定められている強度に達しない事態に陥ってしまいました。

管理体制に不備があった

この偽装やミスを見抜くためのチェック体制・管理体制はどうなっていたのか、流れを見てみましょう。

  1. 設計者が構造設計書を作成
  2. 確認検査機関がチェック
  3. 問題無ければチェック済証を発行

マンションの分譲事業には用地取得から分譲に至るまですべてプロの手によって行われますが、プロと言えどもヒューマンエラーはあるため、確認検査機関によるチェックが必要です。

今回の事件でチェックを担当した確認検査機関はイーホームズ㈱です。

もともと確認検査は行政が行う仕事でしたが、現在は民間にも任されるようになっています。

その重要な立場のイーホームズがまったく機能を果たしていなかったのです。

ではなぜ確認検査期間が民間に任されるようになったのでしょうか。

なぜ民間が確認検査をするようになったのか

確認検査はもともと、建築主事(けんちくしゅじ)という建築基準法第4条の規定により建築確認を行うため地方公共団体に設置される公務員の仕事です。

建築主事とは、建築基準適合判定資格者検定に合格し、国土交通省に登録されている者の中から市町村長または都道府県知事から任命された重責の職です。

しかし、確認申請件数の増加により建築主事の処理能力が追いつかなかったり、建築技術の高度化・専門化に審査する建築主事の能力で追いつけなくなりました。

そのため現在は、

【建築主は、建築物等の工事に着手する前に建築の申請書を提出し、建築物等が建築基準関係規定に適合するものであることについて建築主事又は指定確認検査機関(国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者。)の確認を受け、『確認済証』の交付を受けなければなりません。】
引用:(建築基準法第6条第1項)(建築基準法第6条の2第1項)

とあるように建築主事又は指定確認検査機関と、民間の指定確認検査機関にも任されるようになりました。

本来、1999年に始まった建築確認の民間開放は民間の技術的能力を活用するチャンスでした。

しかし、営利に走ってしまい、安く・早くという官庁には無い安易な審査に流れしまったのかもしれません。

それぞれの手順でそれぞれに問題があるように見えましたが、そもそも時代として偽装がOKな空気がはびこっていたのでしょうか?

現在では言語道断ですが、当時の状況を振り返ってみましょう。

各業界で偽装が発覚した時代背景

時代背景としては、姉歯事件をきっかけに様々な業界で偽装の事件が明るみにでました。

代表的な例を言うと下記になります。

  • 2007年 東洋ゴム工業耐火耐熱パネル性能偽装事件
  • 2007年 アパ京都ホテル耐震偽装事件
  • 2011年 東洋ゴム工業免震ゴム性能偽装事件
  • 2013年 三菱自動車燃費偽装事件
  • 2015年 住友不動産マンション傾斜事件(熊谷組による施工不良)
  • 2015年 三井不動産マンション基礎杭データ改ざん事件(旭化成建材)
  • 2018年 神戸製鋼所長年にわたる品質データ改ざん事件
  • 2018年 日産自動車排ガス検査不正事件
  • 2019年 関西電力高浜原発金品不正授受事件

これらは明るみに出た全てではありません。

事故とともに隠し切れずに公表されたものもあれば、『姉葉事件』と同様に関係者の通報で世に出たものもあります。

どの企業も利益を上げている表面上は優良な会社ばかりですが、偽装が発覚しました。

リーマンショック(2008年)の前である小泉政権の時代(2001年~2006年)に、道路公団民営化や郵政民営化を断行されています。

不良債権処理は順調以上に早く処理され、景気は上向きました。しかし、このタイミングで雇用が不安定になり、低所得者とITや金融で富を得る人たちとの格差は生まれています。

労働者派遣法の規制緩和で、非正規雇用が増えたのもこの時代です。

これは意見ですが、このような時代に偽装が多く発覚したのは、世の景気の波に関係するかもしれません。

なぜなら、偽装の主な発覚源は関係者の通報、特に部内からの密告だったからです。

姉歯事件による影響とその後の法改正

2005年の姉歯事件の影響を受けて、様々なマンションなどの建物で構造計算に偽装が無いか、ミスが無いか、業界をあげて再チェックが行われました。

複数の物件が補強されたり取り壊されたりと、非常に大きな影響を受けています。

また、姉歯事件を受けて2006年に新法が成立し、2007年に施行しました。

成立した新法の主な変更点は下記になります。

  • 構造計算適合性判定制度の導入で大きな建物は第3者機関でチェック&審査機関が延長
  • 確認申請の補正慣行を廃止し、間違いは再申請
  • 着工後の計画変更は申請が必要

このような変更のため、建築基準法が厳しくなりました。

そのため、新築の確認検査は通常1か月かかっていたところが3か月かかるようになり、着工件数が急減しました。

建設資材の出荷量は前年比で4~8%減の大きな影響が出たのです。

そして2008年、耐震偽装事件により失われた建築物の安全性と建築士の信頼を回復するために建築士法が改正され、新設された構造設計一級建築士・設備設計一級建築士による法適合チェックが義務付けられました。

建築基準法や建築士法といった法律が改正され、多くの建物の耐震補強や取り壊しにつながった姉歯事件の影響ははかりしれません。

まとめ

この記事では、

  • 姉歯事件の概要
  • なぜ姉歯事件が起きたか
  • 姉歯事件による影響

についてご紹介しました。

姉歯事件という大きな事件をきっかけに、構造偽装にいたる様々な手順が露呈し、建築基準法などの法律が改正されました。

また、その影響で多くの建物の取り壊しや耐震補強が行われました。