横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
近年、インフラや建物などの将来の維持管理・更新費用が増加していくことが問題視されています。
なぜ維持管理費が増加するかというと、施設が増えていけばいくほど、維持管理コストが発生していくからです。
そんな状況をうけて、国交省では30年後に発生する維持管理・更新費用の推計を公表しました。
日本全国にある施設のコストを推計すると莫大な費用が発生します。
そのため、近年はこれからの維持管理方法の考え方も含めて検討されています。
この記事では、維持管理費の推移や将来の維持管理・更新費の考え方、課題についてご紹介します。
目次
維持管理の考え方【事後保全と予防保全】
まず、維持管理の考え方には2種類あります。
事後保全と予防保全です。
事後保全とは
事後保全とは、劣化や故障した箇所から補修をすることです。
従来の補修方法はこの考え方で進められていました。
故障してから補修するため、施設としての機能が低下して性能が落ちたまま使用する期間があります。
機能が低下していると、本来の性能が発揮できません。
機能低下が起こってからのメンテナンスでは、補修が必要な部分が多くなるでしょう。
予防保全とは
予防保全とは劣化が進む前に補修を進めていくことです。
予防保全は定期的にメンテナンスを行うので、施設を安定して稼働させることができます。
予防保全のメンテナンスには、一定期間で交換する方法と部品の劣化度合いによって交換する方法の2通りがあります。
機能が低下する前にメンテナンスを行っていれば、どの程度劣化が進んでいるかを確認することも可能です。
そのタイミング一部補修を行っていれば寿命を伸ばすことも可能になります。
定期的なメンテナンス費用が発生しますが、事後保全とどちらが良いか比較するには、メンテナンスを行わないことによる機能低下で生じるマイナス要素も比較する必要があるでしょう。
30年後の維持管理・更新費の推計
維持管理・更新費用は、2019年度から2048年度までの30年間で合計で最大170兆円から190兆円になると国土交通省から推計が出されています。
この数字は予防保全で推計されました。
今までのように事後保全での補修を考えていくと、維持管理コストが増加して行きます。
コストを抑制するためには、機能が低下する前に予防的にメンテナンスをすることが必要だと推計されています。
では、事後保全と予防保全でどれだけ試算の結果が違うのでしょうか。
事後保全で試算した場合と予防保全で試算した場合の比較
予防保全での維持管理を考えると、5年後、10年後、20年後での維持管理・更新費用が約30%減少、30年後には50%減少します。
インフラでは規模が莫大になりますので、30%の費用が抑制できればとてつもない金額が削減されます。
全体の費用増加は、2018年度を基準として予防保全で推計すると、10年後には費用が1.2倍になると推定されています。
一方、事後保全で推計した場合は、5年後、10年後では1.6倍、20年後、30年後には1.9倍から2.4倍になると予想されているのです。
老朽化する施設が今後増えていくことを考えると、事後保全では費用が多くなりますので対応がさらに後手に回るでしょう。
予防保全にて事前に少しずつメンテナンスを行うことで、増加する施設にも対応することが可能になります。
ここまでで、事後保全よりも予防保全の方が維持管理・更新費用を抑えられそうだということがわかりました。
では、他に維持管理・更新費を抑えるにはどうすればよいでしょう。
維持管理・更新費用の抑制
維持管理・更新を行う上で、費用を抑制することが重要になります。
事後保全から予防保全に切り替えることもに維持管理・更新費の抑制が可能です。
そのほかにも、長寿命化により施設を長期的に利用することや新技術の導入による長期的に利用や、メンテナンス方法の更新が期待されています。
ここでは、特に期待されているPPP・PFIといった手法をご紹介します。
PPP・PFI・新技術による抑制
PPPやPFIといった新しい手法が公共事業でも進められています。
PPPとは、官民が連携して公共サービスを行うスキームであり、官民の技術により費用を抑制することが可能になります。
PFIは、公共事業で培ってきたメンテナンス技術などと民間会社の技術やノウハウ、資金等を組み合わせ、効率化することが目的です。
PFIは、効率的に維持管理ができるように幅広い分野で導入されています。
新しい手法を模索することで、メンテナンスの方法を効率化できないか試しているのです。
このように、維持管理・更新費を抑制するために長寿命化やPPP・PFIなどが試されています。
積極的に試してはいるものの、どうしても維持管理上の課題が出てきてしまっています。
維持管理に関する課題
インフラ設備において、地方公共団体等が管理する設備の割合が高いものもあります。
橋梁や道路の舗装箇所、下水道関係等は市町村での管理の割合が多いです。
そこで問題になってくるのが市町村における技術職員数です。
土木・建築部門系の職員数は平成17年度からの減少傾向には歯止めがかかっていません。
また、技術系職員がいない市町村の割合は約3割に上ります。
平成25年と比べて維持管理・更新に携わる職員は増加傾向にあり、地方公共団体の体制として充実させている傾向がみられます。
多くの地方公共団体では増員の必要があると認識はありますが、実際に増員が予定されている団体は少ないです。
そのような技術者不足の課題があり、人材育成に対する動きが出てきています。
人材育成体制整備
人材を最大限に有効活用するために、研修の開催や参加等の取組が進んでいます。
ですが、ME制度やOJTなどにより長い期間での人材育成は市町村ではまだ十分に浸透していない状況です。
ですが、外部の人材活用では、指定管理者の導入や建設技術センターの活用が多く見られます。
維持管理・更新のために取り入れている人材育成や人材育成の推進は、研修を開催したり、研修に人材を派遣することで知見を広げることが目標です。
また、OJTを実施したり、外部の技術的知見や人材を活用する仕組みを導入している団体もあります。
団体の中に人材が少ないため外部からの人材を活用しているようです。
このように人材を外部から流入させる努力もしていますが、事項で説明しますが、使用する人材を減らす努力もしているのです。
集中管理・集約・再編
維持管理業務を共同で実施することで人件費の削減を目指しています。
ICT技術の活用によって集中管理することも可能になっていますので、単独ではな、共同で管理する場合のほうがコスト圧縮になります。
また、集約や再編等も考慮されています。
都道府県や地方公共団体が一体となってストックの再編を推進する動きもあります。
統廃合を行う場合の考え方や事例等を整理することが必要です。
まとめ
維持管理・更新費用は、2019年度から2048年度までの30年間で合計で最大170兆円から190兆円になると国土交通省から推計が出されています。
全体の費用増加は、2018年度を基準として予防保全で推計すると、30年後には費用が1.3倍で済み、事後保全の2.4倍とはとんでもない金額の差です。
しかし、予防保全で1.3倍の費用で済ませようとすると技術職員の数が足りなくて問題になっています。
その対策に人材の有効活用として、研修や技術センターの活用などをしたり、インフラ設備の施設の統合再編の動きもみられます。