建設業に多いファミリービジネスの特徴

日本の場合、企業総数の99.7%は中小企業です。

そのうちほとんどをオーナー経営者が率いています。

上場企業でもファミリー企業が過半数を占め、日本企業の96.9%をファミリー企業が占めるという推計が示されています。(「ファミリービジネス白書 2015年版(後藤俊夫監修)」

日本全体の付加価値でいえば、54.6%を中小企業が生み出しています。

日本経済の生む価値の半分はファミリービジネスが担っているといっても過言ではありませんが、日本ではファミリービジネスの特徴を踏まえた経営学や理論の研究はほとんどないようです。

一方、欧米ではビジネススクールで「ファミリービジネス・マネジメント」の講義が一般的な科目として定着しつつあると言います。

同族企業と非同族企業はどちらが強いのか?特徴はなにか?今回は建設業における『同族企業』、『ファミリービジネス』について考えてみたいと思います。

ファミリービジネス、同族企業とは?

出資資本比率が半分を超えておらず、数パーセントでも保有した創業一族が経営権を握って経営している会社を一般的に『ファミリービジネス』や『同族企業』と言っています。

法人税法上では保有株式や出資金の合計が、会社の発行した株式の総数や出資金の半分を超えている場合を『同族会社』と定義しています。

ファミリービジネスは、非ファミリービジネスの3倍複雑

創業者を始めとするファミリー企業の経営者は、経営陣に関わる人もいれば、関わらない人もいます。

また、株を持つ人もいれば、株を持たない人もいます。

非ファミリービジネスであれば、対立関係が生じるのはオーナー(株主)とマネジメント(経営陣)の間だけです。

しかし、ファミリービジネスでは3つの円が重なり合うところで様々な衝突や対立があるため、ファミリービジネスは非ファミリー企業よりも3倍複雑になります。

次世代経営者は優秀な場合が多い

創業者は非凡なカリスマ性を持っています。

一方で、次世代の2代目や3代目は創業者のようなカリスマ性を持っていません。

2代目や3代目は、カリスマ性を持たない代わりに時代に合った経営戦略を立案し、会社を変革させようとします。

次世代は、金融機関勤務や同業種での勤務期間を経てファミリー企業に戻ってくるので、決算書から会社の現状を適切に把握する能力を持っています。

そのため、売上計画や営業利益率を競合他社と比較し、分析することで課題を抽出し、会社を改善していこうとします。

改善させる項目には、コスト削減のために下請け業者などの取引先を変更したり、従業員の処遇基準を変更したり、また、ファミリーの公私混合を適切に割り当てる事、などがあります。

創業者と次世代の対立は必然的に発生する

創業者は、上記のような次世代経営者の実施する変革案を容易に受け入れることができません。

企業の業績は自身の実績であり、自身のカリスマ性をもってすれば会社は永続すると考えるからです。

創業者は現状維持を望み、次世代は変革を望むために必然的に対立が生じます。

結果として、株式を強制的に創業者から買い取ったり、血縁関係を解消してしまうなどの御家騒動に発展したり、そのまま後継者が存在せずに廃業してしまうケースもあります。

以上のように、ファミリービジネスは、非ファミリービジネスよりも複雑であるため、多くの対立や衝突が発生する特徴を持っています。

ファミリービジネスの特徴

ファミリー(創業家)とオーナー(株主)とマネジメント(経営陣)との間で複雑に絡み合うため、対立が多く発生する

ファミリービジネスのメリット・デメリット

ファミリービジネスの特徴が分かったところで、ファミリービジネスのメリットとデメリットを見ていきましょう。

ファミリービジネスのメリット

ファミリービジネスのメリットは下記表のようにたくさんあります。

ファミリービジネスの強み ファミリービジネス経営者の回答 一般企業経営者の回答
経営判断が早い 51.3% 25.7%
決定事項の実行が早い 45.2% 17.1%
会社存続への危機感が強い 35.0% 25.7%
長期的な経営戦略が立てられる 24.4% 17.1%
会社の負債などファミリーだから任せられる 20.8% 14.3%
メリットは特にない 16.2% 28.6%
会議とは別の話し合いの場が豊富である 12.2% 14.3%
不況に強い 7.6% 5.7%

(出所)後藤俊夫編著『ファミリービジネス』p.13

多数のメリットのうちポイントになるのは主に2つです。

ファミリービジネスのメリット

1.大改革を事業計画に組み込める

2.圧倒的な長期目線でサービスや商品を運用できる

ファミリービジネスは好きなタイミングで社長が交代でき、世代を超えた後継者も含めて資金繰りを考えることができます。

具体的に考えていくと、ファミリービジネスと非同族企業の一番の違いは、「経営トップの交代システムが組み込まれているか否か」だとおもいます。

上場企業の非同族企業の場合、大きな変化を避けなければならない事情があります。

経営トップの承継において重要視されるのは安定性であり、株主の期待を裏切るようなことは絶対にできません。

大胆な改革が適切なタイミングで実行できないケースがたくさんあります。

一方、ファミリービジネスの場合、経営トップの交代は必然的に行われるため、大胆な改革が突然起こるケースがたくさんあります。

後継者が30代と若い場合は先代とは価値観が全く異なり、会社が大変な混乱を招く場合もあります。

つまり、「ビジネスモデルの再構築」や「会社の大改革」がもともとの事業計画に組み込まれていることが大きな違いになります。

後継者は先代が蓄えたサービスや商品で資金を長期目線で運用することができます。

時代の流れに沿って会社を変革させるシステムが事前に組み込まれていることが同族企業にとっての大きな強みでしょう。

ファミリービジネスのデメリット

ファミリービジネスには上記表のようにデメリットももちろんあります。

ファミリービジネスのデメリット ファミリービジネス経営者の回答 一般企業経営者の回答
公私混同がある 46.4% 63.9%
社長に頼りがちになる 41.3% 13.9%
独断的になる 28.6% 61.1%
社内の公平感が阻害される 21.4% 47.2%
身内に甘くなる 21.4% 27.8%
デメリットは特にない 16.8% 13.9%
会社存続への危機感が薄い 14.3% 8.3%
情報伝達が遅くなる 4.1% 8.3%

(出所)後藤俊夫編著『ファミリービジネス』

ファミリービジネスのデメリット

経営陣の判断が裏目に出てしまう

特筆すべきファミリービジネスのデメリットは経営の意思決定が独断的になりやすく、経営陣の判断が裏目に出てしまうことです。

建設業のファミリービジネス

建設業において、ファミリービジネスは、中小企業からスーパーゼネコンと呼ばれる大企業まで広く存在しています。

建設業の中でも専門的な技術を必要とする職種では、技術職である父親から子どもへ技術を伝えるながら現場で仕事をすることが多いです。

職種でいえば、大工や左官、内装、塗装、溶接工、鉄筋工、建具取り付け、ガラス工事などの専門工事業者です。

建設業での専門的な技術を持つ経営者や職人は、大きな施工会社に勤めるよりも、家族経営を行っているケースが多くみられます。

建設業では87%の企業がファミリービジネス

長野県の建設業における同族企業と非同族企業の比率 帝国データバンク

上図によると、建設業では87%もの企業がファミリービジネスになります。

スーパーゼネコン5社のうち大成建設を除いた鹿島建設、清水建設、竹中工務店、大林組の4社がファミリービジネスです。

中堅ゼネコンでは前田建設工業、戸田建設、鴻池組、奥村組、野村建設工業などが該当します。

ファミリービジネスの失敗例1 社寺建築会社がマンションに手を出しあわや倒産

まず一つ目は、知人がJVを組んで足りない力を借りた時のお話です。

JVを組んだ会社は、創業1400年の日本で一番有名な寺社仏閣を専業で手掛けていた会社でした。

「当社には営業マンはいらんよ。電話番を置いておけば毎日建替えやら、修繕を依頼する従来顧客から連絡が来るからそれだけこなしていたらいいんだ。」

その時、うらやましい会社だと知人は思っていたそうですが、いつの間にかそのJVを組んだ会社が大手建設会社のグループ会社になってしまったそうです。

知人は気になって担当者に事情を聴きに行きました。

担当者によると、「一時期受注量が落ち、その頃どの建設会社もマンション建設に熱にうなされたようにかかっており、それを見た社長が手を出してそれが大失敗につながっててしまった」とのことでした。

本業の寺社仏閣にだけ専念していたらよかったのでしょうか。

経営判断が裏目に出たようです。

ファミリービジネスの失敗例2 ゼネコンが不動産に手を出し大赤字

二つ目は知人がいた一部上場のゼネコンでのお話です。

現在創業100年は超していて、知人の入社当時で社員は1万人いたそうです。

ゼネコンで受注額1兆円を初めて突破したのは彼がいた会社でした。

北陸から発祥したその会社では、社員がまだ2千人くらいの頃まではオーナー社長が全国の現場の工程表を持っていてタイミングよく現場所長に電話をいれて、「明日がコンクリート打ちの最終だな。終わったら職員を連れて腹一杯飲んで来い、俺が言っていると支店に言って金を払ってもらえ。」とねぎらったり、ひょっこり現場に飲み物を持って慰問に現れたそうです。

超多忙にもかかわらず、そんなきめ細やかな配慮をされたら社員も頑張って働きますよね。

いかにもオーナー社長らしい振る舞いだなと聞いた覚えがあります。

しかし、三代目の社長の時に事件は起こってしまいました。

メインバンクの勧めに従って海外の不動産事業に手を出してしまったのです。

それが見事に大失敗。

ほかにもいくつか不幸は重なり、国内工事採算は黒字であったのにもかかわらず、全社での累積債務は1兆円の赤字となってしまいました。

彼や彼の仲間は自ら会社を去り、多くの社員は肩をたたかれて現在3千数百人の会社になっています。

これが一部の経営者のみで判断出来てしまう最大のデメリットです。

失敗しなければいまだに血縁が社長席に座っていたことでしょう。

でも結果は、多くの社員が多くの家族とともに人生を変えなければなかったのです。

これを考えると会社の経営判断は本当に重たく難しいものです。

書籍紹介

ファミリービジネスに関連した書籍を紹介します。

個人的には、星野リゾートの星野佳路さんの書籍が非常に読みやすいと思います。

星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書

星野リゾートの教科書

競争の戦略

最後に

『ファミリービジネスと非同族企業』どちらが良いとかどちらが悪いという観点から考えるのではなく、ファミリービジネスとしての利点、非同族企業としての利点をどう活かすかを考えるべきだと思います。

近江商人の『三方よし』という言葉が思い浮かびます。

売り手よし、買い手よし、世間よし、です。

自分の会社をしっかり守り、お客様を大切にする、そのことが最終的には社会のためになり、自社にも返ってくる。

そんな好循環が持続できる会社であり、同族企業と非同族企業をよく知って自身にいつも当てはめ戒めることが大切なのではないかと思います。