横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
世界中の国々でカーボンニュートラル社会(脱炭素社会)に向けた取り組みが加速しており、日本は2050年までにCO2(二酸化炭素)を排出実質ゼロにすることを目指しています。
様々な分野でカーボンニュートラルの実現に向けて取り組みが開始されている中で、特に製造業の中で最大規模のCO2を排出している鉄鋼分野の取り組みが非常に重要視されています。
この記事では、カーボンニュートラル社会実現に向けた鉄鋼分野の取り組みを読み解き、なぜスクラップの価格に影響を与えているのか詳しく見ていこうと思います。
経済産業省「トランジション・ファイナンス」に関する鉄鋼分野における技術ロードマップ
目次
鉄鋼業について
まずは、鉄鋼業についてみていきましょう。
日本の鉄鋼業界は世界トップクラスの技術力を誇り、国内でも重要な産業として私たちの社会生活にも多大な影響力を持っています。
産業規模
2016年の国内における鉄鋼業の総出荷額は16兆円、非鉄金属業は9兆円です。
従業員数は鉄鋼業が22万人、非鉄金属業は14万人を抱え、製造業全体のGDPに占める割合は8.4%にもおよびます。
鉄鋼業及び非鉄金属業を含む鉄鋼業界は、産業機械産業や自動車製造業、情報通信機器産業など、他の様々な産業の基盤となっていることから大きな影響力を持っていることがわかります。
製鉄プロセス(高炉と電炉)
鉄の製造方法は、主に2種類あり、鉄鉱石と石炭(コークス)から高炉・転炉により還元・溶解して生産する方法と鉄スクラップを電炉により溶解して生産する方法があります。
日本は世界第3位の粗鋼生産国ですが、その約8割を高炉メーカーが占めています。
高炉での製鉄方法は多くのCo2を排出する
続いて、CO2の発生過程について見ていきましょう。
1トンの製鉄過程で約2トンのCO2が発生し、その大半は高炉における鉄鉱石の還元工程で発生しています。
鉄鋼業のCo2排出量は、日本全体の約14%にものぼり、鉄鋼業におけるCO2排出量の削減は喫緊の課題と位置付けられています。
ゼロカーボン・スチールの実現について
鉄鋼業の現状がわかりましたので、次は各国の目標と課題について見ていきましょう。
日本鉄鋼連盟は、2021年2月、「我が国の2050年カーボンニュートラルという野心的な方針に賛同し」、「日本鉄鋼業としてゼロカーボン・スチールの実現に向けて、果敢に挑戦する」旨を表明しています。
日本の2050 年カーボンニュートラルに関する取り組みと、世界一の鉄鋼生産国である中国の取り組みについて詳しく見ていきます。
日本は水素還元製鉄の技術開発(COURSE50プロジェクト)でCO2を発生させない高炉の開発を進める
日本は世界に先駆けて水素還元製鉄の技術開発(COURSE50プロジェクト)を開始しました。
水素還元製鉄は「還元工程」における低炭素技術であり、CCUSやバイオマスの活用と併せることで、「還元工程」におけるCO2排出ゼロが可能になるものです。
水素還元製鉄に成功した国はまだ存在していない為、日本はものすごく野心的で高い目標を設定していることがわかります。
スクラップ価格の高騰の原因は中国の電炉政策
中国も日本と同様に、従来の高炉と比較して50%以上のCO2排出を削減する高炉製鉄技術の確立を目指していますが、メインの政策は2021年6月に制定された電炉製鋼へ政策誘導です。
近年の中国主要都市の急速な都市化や工業化の発展は、大量な鋼材を消費すると同時に、豊富な鉄資源も蓄積され、大量な市中鉄スクラップの発生をもたらしています。
この鉄鋼蓄積量の増加に伴い、鉄スクラップ資源は増え続けていくため、全量鉄スクラップを原料とする電炉工程の製鋼コストは、高炉工程での製鋼コストと比較して低くなっています。
全世界的にカーボンニュートラル社会への実現が求められている中で、中国における電炉製鋼の比率は約10%であり、世界平均電炉比率の30%と比較すると非常に低い水準にあります。
中国は製鋼工程をコストが安く、CO2排出量が少ない電炉に切り替えることでカーボンニュートラル社会を実現していこうと試みているのです。
電炉が主流になれば、鉄スクラップの需要が増加するため、鉄スクラップの価格が高騰しています。
電炉製鉄への誘導政策による中国での需要増加
異形棒鋼の価格は年始から100%値上がりへ?
異形棒鋼の価格は2021年年始では約63,000円(D16ベース)でしたが、直近の価格は約89,000円と急騰しています。
今後も価格には注視する必要があります。
まとめ
今回の記事では、世界中の国々でのカーボンニュートラル社会(脱炭素社会)に向けた取り組みのうち、特に日本と中国の取り組みについて見ていきました。
鋼材価格に関しては、中国の情勢が密接に関係しています。
日々、鋼材メーカーから情報を取り合って対策をしていきましょう。