横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
今回の記事では、施工不良・偽装工事を引き起こした企業の法律上の責任についてご紹介します。
目次
実際に不正行為を働いた企業の損害賠償責任
民法709条は以下の様に定めています。
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この条文では「故意又は過失によって」とあります。
つまり、偽装と分かっていながら鉄筋を数本減らした場合も、工事担当者のうっかりミスで鉄筋が足りなかったとしても、それによって第三者に被害が及べば、損害賠償責任が発生します。
「他人の権利又は法律上保護される利益」の侵害とは?
施工不良で考えられる「他人の権利」と「法律上保護される利益」の侵害について考えてみましょう。
憲法では「財産権」と「生存権」が保証されています。
例えば、施工不良マンションの購入者・住人を例に考えてみましょう。マンションは大きな買い物で、優良物件であれば資産価値もあり将来売ることとなったとしてもある程度の金額で売れることでしょう。
ですが、施工不良マンションとなれば大幅に資産価値は下落してしまいます。つまり財産権の侵害です。
そして、床が傾いたマンションに住んでいるだけで健康被害が出ることは既に分かっていることですので、生存権の侵害です。
そのほか、目に見えない権利・利益を侵害した場合も対象となります。
発注者も被害者
施工不良の被害者は、不良物件をつかまされた住民だけではありません。
注文者の不動産デベロッパーやNEXCOなどの企業も被害者となり得ます。
施工不良による企業イメージの下落も条文で言う「権利の侵害」にあたりますので、当然損害賠償請求があればそれに応じる義務が生じます。
元請け企業と中間企業の使用者責任
大きな工事では実際に施工を行った企業のほか、発注者から直接仕事を請け負っている元請け企業や1次下請け企業などの様な中間企業もいます。
当然、彼らにも責任が発生します。
民法第715条(使用者責任)
第1項 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当な注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
第2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
第3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行為を妨げない。
企業間の契約も「使用者責任」が適用される
この法律、一般的には従業員の不法行為について雇用主にも責任があるとして説明されていることが多いのですが、実際には指揮監督関係が成立して入れば適用されます。
その為、元請けと下請けといった関係でも元請けには「使用者責任」が適用されてしまいます。
下請け企業の独断行為にも責任を負う
不正工事が発覚すると、よく元請け企業や中間企業は実際に施工をした施工会社のみを責めます。
ですが、条文の第1項にある通り、「被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき」以外は責任を負わなければならないのです。
元請け企業などには下請け企業を監督する義務があり、「知らなかった」という言い訳が通らない立場なのだということを忘れてはいけないのです。
注文者にも責任はあるのか?
民法716条には注文者の責任を以下の様に定めています。
民法第716条「注文者の責任」
注文者は請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
条文にある通り、施工業者に仕事を依頼した不動産業者やNEXCO、国・地方自治体などには責任はありません。
ですが、例えば極端に短い工期での工事を強要したり、工事費を大幅にカットしたりなどといった、不正が起こり得る状況を作り出したとしたら、責任がないとは言い切れません。
マンションなどの様に工事が完了する前に販売を開始し、入居予定日を決めてしまった場合、施工業者は何が何でもその日までに工事を完了させなければなりませんので、注意を怠ってしまうこともあり得ます。
発注者には、施工業者が無理をすることなく工事を行える十分な工期と予算を準備する義務があると言えるのではないでしょうか?
まとめ
建築・土木に限らず、これまでに様々な工事における不正が発覚しています。
ですが、その度に繰り返されるのが元請け企業と下請け企業による罪の擦り付け合いです。
その背景にあるのは、それぞれの企業が自身の義務と責任を正しく理解していないことにあるのではないでしょうか?
今回、民法上の「不法行為」における企業の責任というテーマで記事を書かせていただきました。
しかし、実質的な被害者がいるという事実を忘れることなく、今一度自分たちの責任と義務に目を向け、どうすれば不正が無くなるのかということを真剣に考えていただきたいものです。