横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
建設業は3K(きつい、汚い、危険)と言われてきており、長時間労働、人材不足など様々な問題を抱えています。
特に若手の人材不足は深刻であり、国の方でも建設業の働き方改革を進める動きが見られます。この記事では建設業の労働環境の現状や改革についてお話ししていきたいと思います。
目次
建設業界の労働環境の現状
ハードワークと認識される建設業は労働時間や出勤日数の超過が問題となっています。ここでは建設業界の労働環境の現状についてお伝えしていきます。
建設業界の労働時間と出勤日数
建設業界の労働時間と出勤日数は長くて多いというイメージがあるかと思います。厚生労働省は毎月勤労統計調査を実施しており、令和元年度分結果確報によると建設業の月間実労時間は就業形態で168.2時間、一般労働者で172.6時間です。出勤日数は就業形態で20.5日、一般労働者で20.8日という結果でした。
参考資料:厚生労働省 毎月勤労統計調査 令和元年度分結果確報
参議院常任委員会調査室・特別調査室の資料に添付される国土交通省の資料によると、建設業の年間実労時間の推移では2007年度:2065時間、2018年度:2036時間となっており、全産業は2007年度:1807時間、2018年度:1697時間と、年間実労時間の差は258~339時間と差が開いていて、いかに建設業の労働時間が長いかがわかります。
参考資料:参議院常任委員会調査室・特別調査室 建設業における働き方改革の概要
建設業の出勤日数においては2007年度:256日、2016年度:251日となっており、全産業は2007年度:233日、2016年度:222日と、やはり比較すると建設業の方が出勤日数も多いことがわかります。
この調査の結果から見えることは、他産業は時短により労働時間が短くなってきていますが、建設業は増減を繰り返しており時代の流れに反しています。
建設業界の休日の状況
建設業の出勤日数が多いことから休日日数も他産業と比べると少ないことがわかります。建設業の休日の状況は4週8休(いわゆる週休2日制)を取り入れている企業が全体の6.5%と一割にも満たしていません。
最も多い割合となったのが4週4休で39.5%、次に多いのが4週6休で24.6%、4週5休で16.3%、4週3休以下で11.2%という結果であり、大まかに言うと週休1日の企業が大半であることがわかります。
参考資料:参議院常任委員会調査室・特別調査室 建設業における働き方改革の概要
建設業の労働者数の減少
ハードな環境下にある建設業ですが、人材不足も深刻化しております。建設業の働き手は60歳以上の高齢者が81.1万人いて全体の24.5%です。これからの建設業を担う若い世代の20~24歳は36.6万人で全体の11.0%と少なく、10年後には定年により大量の離職が見込まれています。
現在の労働者数の状況から10年後の大量離職を補える若手の入職者が不十分であり、建設業の人材不足が不安視されています。
建設業の年間賃金
建設業の年間賃金は上昇傾向にあります。しかし、建設業の技能労働者については製造業と比べて約5%の差で低い水準となっています。
2012年(千円) | 2017年(千円) | 上昇率 | |
建設業男性生産(技能者)労働者 | 3915.7千円 | 4,449.9千円 | 13.6% |
建設業男性全労働者 | 4831.7千円 | 5,540.2千円 | 14.7% |
製造業男性生産(技能者)労働者 | 4478.6千円 | 4,703.3千円 | 5.0% |
製造業男性全労働者 | 5391.1千円 | 5,527.2千円 | 2.5% |
全産業男性労働者 | 5296.8千円 | 5,517.4千円 | 4.2% |
また、建設産業生産労働者(技能者)の賃金は45~49歳がピークとなっており、この動きから体力のピークが賃金のピークと見られている傾向にあります。
体力の低下が賃金に大きく関係し、マネジメント力などが十分に評価されていないということがわかります。
建設業の労働環境改善に向けての取り組み
建設業の労働環境の問題である長時間労働や給与、社会保険に関して国も対策を進めています。国土交通省は建設業働き方改革加速化プログラムを策定し、長時間労働の是正、給与・社会保険の改善、生産性の向上を目標に対策が行われています。それでは以下に具体的なことをお伝えしていきます。
長時間労働の是正
長時間労働を改善するために「週休2日制の導入を後押し」と「各発注者の特性を踏まえた工期設定を推進」の取り組みを進めています。長時間労働については罰則付きの時間外労働規制の施行猶予期間(5年)を待たずに労働時間を改善し週休2日制の確保ができるように計画しています。
特に技能者の多くは日給月給であるため週休2日制の導入では注意して取り組むように計画が進められています。
「各発注者の特性を踏まえた工期設定を推進」については長時間労働とならないための適正な工期設定を求めて進めており、ガイドラインを作成し、受発注者の協力による取り組みを推進しています。
給与・社会保険の改善
給与社会保険の改善では「技能にふさわしい処遇(給与)を実現する」と「社会保険への加入を建設業を営む上でミニマム・スタンダードにする」を目標にして労働環境を改善することが進められています。
「技能にふさわしい処遇(給与)を実現する」については、適切な労務単価の活用と賃金水準の確保を下請けの建設企業まで行き渡ること、退職金共済制度の普及などを要請しています。また、建設キャリアアップシステムを導入して、概ね5年で全ての建設技能者約330万人の加入を推進することを目標に掲げています。
「社会保険への加入を建設業を営む上でミニマム・スタンダードにする」については全ての発注者に対して工事施工、下請けの建設企業を含め、社会保険加入業者に限定するように要請しています。これは社会保険未加入の建設業は建設業の許可・更新を認めない仕組みを構築することを目的としています。
生産性の向上
- 生産性の向上に取り組む建設企業を後押しする
- 仕事を効率化する
- 限られた人材・資機材の効率的な活用を促進する
- 重層下請構造改善のため、下請次数削減方策を検討する
上記4つの目標を掲げて建設業の生産性を向上させる取り組みがされています。
生産性向上にはICT(スマートフォンやパソコンなどの通信技術を活用したコミュニケーション)を活用し、書類の簡素化や監督・検査の合理化などを図るi-Construction(アイ・コンストラクション)を進めています。
働き方改革による建設業の労働環境の変化
週休2日制を実現するために働き方改革を始めている会社もあり、一時的な措置だとしても今の働き方に慣れている年齢層は従来通り働いてもらい、若手の従業員には徹底的に残業を減らすといった対策をしている会社もいます。
また、建設業は男性従業員が多いイメージですが、スーパーゼネコンを中心に女性総合職社員を増やす動きもあります。人材不足と離職率の高いことが問題となっている建設業も働き改革により少しずつですが変化が起こっています。
建設業に従事している方やこれから就職しようと考えている方は、こういった労働環境の変化を積極的に行う会社に注目してみるといいでしょう。