横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
聖書によると、古代バビロニアにおいて二ムロデ王が天に達する『バベルの塔』を建てました。
目的は人々がそこに集まり離散しないためです。
4000年以上の時が流れ、そこから南東に1800㎞ほど下ったアラビア半島の爪先部分に、バベルの塔を彷彿とさせる、天にも届きそうな超高層ビルディングが建設されました。
ドバイにあるブルジュ・ハリファです。この超高層建築物も、世界中から人とお金を集める目的で建設されました。
この記事では、その建設技術について紹介します。
目次
ブルジュ・ハリファの概要
「ブルジュ・ハリファ(BURJ KHALIFA)」は、2010年に完工した、アラブ首長国連邦のペルシャ湾に面するドバイにある世界一高い建築物です。
高さは828mもありギネスブックに認定されています。
エグゼクティブなホテルや高級マンションそしてオフィスで構成され、外観も内装も瀟洒な地上206階建てのビルです。
周辺にショッピングモール,宿泊施設,アミューズメント施設が設けられ、巨大複合ファシリティの中心施設として位置づけられています。
注目の躯体建設技術
これだけの超高層ビルの建設のために用いられた、驚嘆の技術を紹介します。
高強度コンクリート
ブルジュ・ハリファでは、80ニュートンの高強度コンクリート(一円玉の面積で約2.5トンに耐える強度)が使用されています。
通常の普通コンクリートは24ニュートンですから大幅に強度が高いコンクリートが用いられています。
では、なぜ高強度コンクリートなのでしょうか。高層ビルの強度を考慮する場合、当然下の階ほど支える重量が増えてしまいます。
そのために太い鉄筋を使用したり柱を大きくするなどして、建物の強度や耐力を強化する必要が生じます。この点が超高層構築物の難題でした。
しかし、高強度コンクリートを採用することによって、柱等の構造部分を必要以上に大きくせずに、この強度の問題を解決できたのです。
ちなみに地震大国日本においては、武蔵小杉の某タワーマンションにおいてさらに強度の高い、150ニュートンの超高強度コンクリートが使用されています。
基礎部分
建物の自重50万トンもの重量に耐えるため、基礎には3.7mの厚みのマットスラブと、地下には鉄筋とコンクリートでできた全長50m以上の杭が192本も打ち込まれています。
この基礎とコンクリート杭の力で、ブルジュ・ハリファは軟弱な土砂の上でもしっかりと立っていることができます。
しかし、高さ300mの大阪『あべのハルカス』では、「基礎杭」は地下86mまで打ち込まれていますが、これと比べるとどうなのでしょうか。
まず日本は地震と台風の影響が大きいので基準の違いがもちろんありますが、同時に杭の種類も違うものです。
あべのハルカスで採用された杭は、「第三洪積砂礫層」を支持層とする地下86mまで打ち込みます。
一方、ブルジュハリファは摩擦杭と呼ばれ、固い地盤までは杭を打たずに、杭の摩擦で支える工法が取られました。
それで192本もの大量の杭を打つことにより、その摩擦で建物を支えています。
耐風機構
300m超級のビルになると、ビルに強風が吹き当たったとき、建物の風下に「カルマン渦」と呼ばれる空気の渦が発生します。
例えば東からの風が建物に当たると、この渦によってビルは南北方向に揺れます。
もし、全高300mのビルに、秒速100mを超える暴風が当たると、それによって発生する渦の周期とビルの揺れの周期が一致し、ビルは大きく揺れて危ない状態になります。
それで、カルマン渦の発生を防ぐために、建物が螺旋状に捻じれながら空に昇っていくような形状になっています。
この形状により風を上部に逃がして、カルマン渦の発生を回避しています。
興味深いことに、建物の形状は乾燥帯に見られる花びらが細長くて白い花、ヒメノカリスがデザインのヒントになりました。
洗練された装備・設備技術
ブルジュハリファのような超高層ビルでは、高層階では最大で時速240㎞もの風が吹くこともあるので、建設前に何度も模型による風洞実験をおこなって、風による影響を実験しています。
外周ガラス
ビルの外側は、26,000枚以上のガラスパネルで覆われています。
この外周ガラスパネルは、ブルジュ・ハリファを見る人の心を高揚させときめかせる存在です。
しかし、通常ガラスは熱や冷気を通しやすい素材と考えられます。
そして、ドバイでは真夏の平均気温が40度近くに達し、うだるように暑い気候です。
ガラスのような外壁では、室内の温度を快適に保つことが困難ではないでしょうか。
実はここで使われている外部ガラスは、太陽の熱の70%以上を反射するように設計されています。
つまりガラスパネルに特殊なフィルムを貼ることで、紫外線と赤外線を反射して遮断することができ、室温を快適に保つ助けになっています。
空調
空調装置は、「氷蓄熱システム」と呼ばれています。まず電気の消費が減少する夜間に製氷を行い地下の蓄熱槽に貯蔵します。
そして日中の空調装置の使用量が最大になる時間帯にその氷を溶かします。
そのようにして製造された冷水を、周辺施設群の冷房や配水システムに活用する仕組みとなっています。
さらに、公園の人工湖への灌水や周辺冷房システムの冷却水として活用が図られています。
まとめ
古代バベルの塔は建設途中で神罰が下り、人々はその都市の建設から離れていったということです。
一方ブルジュ・ハリファは、訪れる人を魅了しその心を虜にする建築物として竣工しました。
異次元の別世界に来たような、非日常を体験できる空間です。まさに世界中から人々が集まり、その華麗さに魅了されています。
そして、ブルジュ・ハリファがどのように建設され維持されているかに目を向ける時、その感動はより深くなることでしょう。