横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
2023年4月28日に第7回の「技能実習・特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が開催され、同会議での配付資料が出入国在留管理庁のホームページで公開されました。
この記事では、同資料の内容を理解したうえで技能実習・特定技能制度の在り方について個人的な意見を述べようと思います。
目次
現在の技能実習制度の問題点について
同会議資料の中で以下の点が修正検討されることになるようです。
・現行の技能実習制度を廃止し、人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討
・従来よりも転籍制限を緩和する方向
・監理団体は、国際的なマッチング機能や受入れ企業等や外国人に対する支援等の機能を適切に果たすことができる優良な団体のみが認められるようにするため、受入れ企業等からの独立性・中立性の確保や、監理・保護・支援に関する要件を厳格化する方向で検討
・悪質なブローカーや送出機関の排除など更なる対応を検討
・日本語能力に関する要件化も含めて就労開始前の日本語能力の担保方策について検討
この内容を理解するため、まずは、現状の技能実習制度の問題点について確認したいと思います。
現行の制度の目的は人材確保ではない
技能実習法第1条には次のような記載があります。
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(中略) 技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的とする。 |
技能実習制度の目的は上記の通りですが、人材育成は建前だけであって、実際は人材確保のための所謂奴隷制度になっているのではないか?という点が問題視されています。
受け入れ企業による人材育成が適切に行われない場合、単なる労働力確保とみなされて人権問題に発展してしまう
帰国後技能実習生フォローアップ調査によれば、日本で技能実習を経験した実習生の約20%程度しか帰国後に技能実習に関係する仕事に就いていないことが明らかになっています。
つまり、技能実習制度の意図する目的通りに技能実習生が技能を習得している割合は、現状たったの2割ということになります。
建前上は「人材育成」として人材を受け入れているのにその経験を生かしているのは2割だけということは、人材育成ではなくて労働力を確保しているだけなのでは?と諸外国から批判されています。
同資料ではこの原因は必ずしも監理団体や実習実施者だけの責任ではなく、送出機関や技能実習生本人の来日の真意、また、国内外に存在しているブローカーの問題が大きく関係していると指摘しています。
実際に実習生を受け入れてみた感想
弊社では2019年から10名の19歳から48歳までの技能実習生をモンゴルから受け入れてきました。
2023年5月現在も5名の技能実習生を受け入れています。
僕は技能実習生の受け入れ初日の面談からその後の衣食住のサポートや悩み相談、出入国在留管理庁による検査対応などを約4年間行ってきました。
前述の一般的な問題点を把握したうえで、ここからは僕自身の体験を踏まえた意見を述べたいと思います。
実習生のほぼ100%は勤務経験がゼロの出稼ぎ目的の実習生
技能実習生の受け入れ初日の面談の中で、僕が一番最初に聞くようにしたのは「日本に来た目的」です。
技能実習法第1条にもある通り、技能実習制度の目的は人材確保ではなく技能、技術又は知識の移転であり、これを技能実習生は理解しているのかどうか一番最初に聞くようにしていました。
しかしながら、技能実習生の来日理由は以下の通りです。
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1.お金を稼ぎたい 2.日本の文化を学びに来た 3.親と相談して来た 4.大学に在学していたが退学になってしまった 5.日本が安全だから 6.わからない |
このように、技能を習得する目的で来日する技能実習生は今まで0人です。
ほとんどの技能実習生が出稼ぎ目的で来日するようですが、中には「わかりません」と答える技能実習生もいました。
日本に来た理由を聞いて、「わからない」と回答されたので僕はとても困りました。
受け入れ企業側は技能や技術を教えるつもりで実習生を受け入れます。
しかし、実習生側は全くそれを理解しないまま来日して勤務を開始するので、両者には大きなギャップが発生してしまいます。
技能を習得する目的で来日する実習生はほぼいない
出稼ぎ目的の実習生の場合、受け入れ企業との間に大きな認識のギャップが生じてしまうので問題が多発する
自立性が皆無 労働契約書を見たことがない?
面談時には趣味や勤務経験、家族構成、将来の目標などいろいろなことをヒアリングします。
ヒアリングを実施する中で、彼らは自分自身で日本で働く事を自分で決意して選択したのではなく、誰かに背中を押されたり推薦されて来日することが多いと感じています。
将来の目的が非常に曖昧で、どうして日本に来たのかをはっきり受け答えできた実習生は1人もいません。
彼らの多くは、現地のブローカー(送り出し機関)経由で来日します。
ヒアリングすると契約書にサインするまでの大体の流れは以下のようになります。
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1.身内の知り合いに進められてブローカーに会う 2.人文(技術・人文知識・国際業務)のビザを取れない人を募集・応募 3.ブローカーに日本に出稼ぎすれば月20万楽して稼げると提案される 4.保証料で20万~30万程度の借金をして契約書にサイン |
来日する実習生の多くは、親戚がつながっているとか共通の知人がいるとかでそこそこ狭いコミュニティーの中から選抜されて来日するようです。
彼らは「技術・人文知識・国際業務」の要件を満たせないので、技能実習制度を利用して出稼ぎを提案されます。
20歳前後の方の場合、親が勝手に話を進めてしまったので労働契約書を見たことが無いという方もいました。
技能実習生の多くは「来日すれば楽して月20万稼げる」とそそのかされて来日している方も少なくないのではないでしょうか。
前述した問題点の中で賃金の問題がありましたが、彼らは事前に「手取りと税金」を理解しないまま勤務し始めるので、ここでも認識のギャップが生じることになります。
自分で決意して選択していないので、自分に降りかかる不幸や挫折を他人のせいにして不平不満をぶちまけます。
これが「失踪」や「コミュニケーション不足によるケンカやパワハラ」の原因になると考えます。
同会議資料で指摘されているように、「送出機関や技能実習生本人の来日の真意、また、国内外に存在しているブローカーの問題」というのは確かに存在していると考えます。
技能の習得以前に社会人としてのレベルが低すぎるので必然的に一番低い等級からスタート
前述したように、技能実習生の多くは目標を持って主体的に来日するわけではありません。
彼らの多くは勤務経験が無く、また努力したり挫折したりした経験を持っていないので人望を無くすような行動をとる傾向にあります。
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・時間を守らない ・人のものを勝手に借りる ・嘘をつく ・自分の失敗を人のせいにする ・挨拶をしない |
たとえレベルの低い中小企業の採用基準であっても、一般的な社会人としての基本が身についていなければ必然的に一番下の等級からのスタートになります。
適切なコミュニケーションを取ることができなければ指示された業務を適切に理解して遂行することはできない為、等級は一番下の等級のままで等級が上がることはありません。
このような客観的な評価を受け止めて、前向きにとらえて努力できれば良いのですが、努力できない方は逃げ出してそのまま失踪してしまうようです。
送り出し機関が情報弱者及び社会的弱者を利用した派遣ビジネスを行っている場合、技能実習生は5歳レベル
受け入れ企業が適切なインセンティブや等級制度を用意していても、彼らは必然的に一番下の等級からスタートし3年間で等級が上がることはほとんどない
結論:事前にオンラインで面談できる機会を設けること、実習生に自分で選択し決意させること
「技能実習・特定技能制度の在り方に関する有識者会議」によれば今後の方針の中で送り出し期間やブローカーを厳しく取り締まる事が検討されています。
これはとても良いことだと思いますが、派遣ビジネスを熟知しているブローカーを取り締まる事ができるのかどうか疑問です。
情報弱者及び社会的弱者は必ず一定数存在しており、彼らの来日の真意を事前に正確にヒアリングすることは不可能だからです。
また、転籍制限を緩和して技能実習生の自由な働き方を確保したり、就労開始前の日本語能力を担保しようと試みても無駄に終わる事でしょう。
なぜなら自分で考えて行動し、自分で課題を解決することができなければ会社からのインセンティブは受けることはできず、N4レベルの日本語はほとんど意味をなさないからです。
受け入れ企業は入社前の技能実習生に対してオンラインで入社面談できる機会の増加を望んでいます。
できれば3回程度実習生に対して面談できる機会を必須として設けるべきだと考えます。
技能実習生は入社を希望する会社の情報を事前に入手し、自分の人生設計と短期間での会社での予定計画表を作成するべきです。
自分の目標に合いそうになければその会社には入社せず、自分に多くのメリットがありそうな会社を自分で選択すれば良い思います。
・現行の技能実習制度を廃止し、人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討
→〇社会人として一定レベル以上の常識をもっている人材だけが会社を選択できるようにすればよい
・従来よりも転籍制限を緩和する方向
→×5歳レベルの人材すべてを受け入れ可能にしたままでは無駄
・監理団体は、国際的なマッチング機能や受入れ企業等や外国人に対する支援等の機能を適切に果たすことができる優良な団体のみが認められるようにするため、受入れ企業等からの独立性・中立性の確保や、監理・保護・支援に関する要件を厳格化する方向で検討
→〇
・悪質なブローカーや送出機関の排除など更なる対応を検討
→×派遣ビジネスを熟知しているブローカーを取り締まるのは無理。受け入れ会社は事前に面談する機会を望んでいるだけ
・日本語能力に関する要件化も含めて就労開始前の日本語能力の担保方策について検討
→×自分自身で考えて決意させることが重要
まとめ
この記事では、「技能実習・特定技能制度の在り方に関する有識者会議」で公開された技能実習・特定技能制度の今後の在り方について個人的な意見を述べました。
今後の方針が何点か示されていますが、本当に現状を把握できているのか疑問です。
受け入れ会社は事前に面談する機会を望んでおり、社会人として一定レベル以上の常識をもっている人材が入社してくれれば十分だと考えます。
無駄なことはせずに適切に技能実習制度が改善されることを望みたいと思います。