横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
美術館というとどんな場所を想像されるでしょうか。
もしかすると館内には貴重な美術品が展示されている、少し敷居の高い重厚な場所を想像されるかもしれません。
しかしこれから紹介する金沢21世紀美術館は、その外壁全てが透明度の高いガラスで建造された、とにかく明るくて公園のように開放的でお洒落な建築物に仕上がっています。
今日はこの金沢21世紀美術館の特徴や建築物としての魅力に迫ってみたいと思います。
目次
金沢21世紀美術館の概要
金沢21世紀美術館は、石川県の県庁所在地である金沢市の中心部に位置しています。
もともと金沢大学附属小中学校があった場所で隣には名所兼六園と市役所があるので、地元の方にも観光客にとってもロケーションとしては大変恵まれていると言えます。
入館者数は2015年には237万人を記録し、日本国内の美術館の入場者数ランキングにおいて、国立科学博物館や国立新美術館を抜き全国1位になるほど人気の高い施設です。
魅力的ながら普段着でも入れる金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館は、21世紀という大きな歴史の転換点にあたり、ミュージアムとまちとの共生により、新しい金沢の魅力と活力を創出する目的で開設されました。
そのために世界の美術表現に市民と共に立ち会い、「まちの広場」として市民との参画交流型を目指し、さらに未来の文化を創り出す子どもたちに開かれた教室として最適な環境を提供します。
その市民に開かれた美術館、誰でも普段着で入れる美術館というコンセプトに調和して、建物三面が道路に面している特徴を生かし、4か所の異なる方向に玄関が設けられています。つまり、いつでも気軽に入ることができるのです。
また屋外に広がる芝生のエリアと美術館内の交流ゾーンと呼ばれるエリアは無料で入場でき、「まちに開かれた公園のような美術館」として人々が気軽に立ち寄れる施設になっています。
実際に無料エリアで散歩をしたり、お弁当を食べたり、気軽にオブジェを鑑賞している人をよく見かけるようです。
金沢21世紀美術館の驚愕の美しさとその建設技術
それでは、金沢21世紀美術館を美しさを際立たせている建築・施工面における技術と特徴に注目してみましょう。
総ガラス張りの外周面
この美術館を比類のないものにしているのは、何といっても総ガラス張りの外周です。
そしてこのガラスは「クラリティア」と呼ばれる高透過ガラスを2枚合わせたもので、一般的な合わせガラスの1.2倍も光を通すそうです。
ですからこのガラスは無垢の透明感を誇り、ガラスの存在自体を感じさせません。
しかもこの壁面(窓)にはガラスが存在するだけで、窓枠やガラスのフレームのような部材は全くありません。つまり外から中を見ても、中から外を見ても視界を妨げる障害物が一切ないのです。
そうすると、視界から建物の中と外の境界が取り払われます。神秘的でありながらも、開放的な世界がそこに突如として現れるのです。
一方でこの合わせガラスは、数々の困難と試行錯誤を経て製作されました。
この美術館は円形のため、ガラスにも曲げ加工を施す必要があります。丸く曲げても歪みのない高精度のガラスを造ることは至難の業です。
しかも1枚当たりの大きさが3m x 4.5mと高透過ガラスでは世界最大寸法で、この点も加工を困難にしたようです。
いずれにしてもメーカーの技術力により、122枚もの正確無比な巨大曲げガラスを加工することができました。
展示室の採光技術と鏡面仕上げの床
展示物に合わせた天窓からの自然採光になっています。光を調整して入れていますが、例えばルーバーを大きく開けると屋外のような明るい空間になります。
しかし現代美術や伝統工芸の中には暗くすることを求められる場合もあるので、状況に応じて違った光の条件に対応できるルーバーを採用しています。
美術館の床は鏡面仕上げになっています。これは表面仕上げの一種で、床の表面を光が均一に反射するように研磨する仕上げの事です。
そして鏡のような光沢があるのが特徴で、床を見ると周りの景色が床に反射します。これは屋外の風景を内部にも引きいれる技術で、館内において外の雰囲気を楽しめるように工夫されています。
難しい建築を支えた建設会社の棟梁精神
これだけ斬新な建築物ゆえ、施工にあたり数々の難問や課題に遭遇したことは想像に難くありませんが、この施工を請負ったゼネコン、竹中工務店の底力について考えてみます。
竹中工務店はスーパーゼネコンとも言われる、日本を代表するゼネコンです。実際に国内のランドマークとなる数々の建築物を手掛けてきました。東京タワー、東京ドーム、東京ミッドタウンなど枚挙にいとまがありません。
しかし、「竹中工務店が施工を請け負った」と読んで、「おやっ」と思われた方もいるかもしれません。
竹中工務店は設計と施工を一貫して担当することにこだわりを持っており、施工だけを請け負うことは珍しいためです。金沢21世紀美術館の設計はSANAAという他の設計会社が担当しています。
では、なぜこの美術館の建設に竹中工務店は携わったのでしょうか。
一つの興味深いエピソードがあります。美術館の屋根部分に関して薄い屋根をつくる必要があったようです。
一方で北陸地方は積雪地帯で、県の条例では1.8メートルも雪が積もるとされています。北陸地方に降る湿った雪が1.8メートルも積もると、1㎡あたり900kgを超える重量になることもあるそうです。
そのため構造設計会社は、計算上は大きな積載荷重に耐えられても実際にどのくらいの性能(耐荷重)があるのか調べる必要がありました。しかし、こんな大掛かりな実証実験を簡単に行うことは一般的には難しいことです。
そこで、実際の屋根部分と同じものを製作して荷重をかけてその剛性と耐力の実証実験をして、斬新な設計を実現しようと協力したのが、施工会社の竹中工務店だったのです。
ここに竹中工務店の「棟梁精神」と気概を感じることができます。設計をしなかったとしても、熱い想いを持ってプロジェクトに参加する、つまり経営理念に謳われている「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」ことの実践です。
こうした美しく斬新な設計と誇り高い棟梁のコラボレーションが、金沢21世紀美術館を特別な建築にしているのでしょう。
まとめ
金沢21世紀美術館は単なる美術品を鑑賞できるだけの場所ではありません。コンセプトにあるとおり人々がが気軽に訪れて、オブジェに触れ合い鑑賞することができる場所です。
そして美術館の建物自体から素晴らしさや美しさを感じることができます。この記事が皆さんに金沢21世紀美術館に興味を持っていただくきっかけになっていれば幸いです。ぜひ「普段着」で訪れてみてくださいね。