横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
東京都の新宿にある日本を代表する建物の一つ、東京都庁。
この建物は旧都庁舎、東京都丸の内からの移転した建物です。
展望台もあり、観光スポットとして海外からも人気の東京都庁、ですがこの建て替えによる建設工事は非常に施工が困難で当時の建築現場では頭を悩ませていたそうです。
今回はその東京都庁の建設について、解説していきます。
目次
施工困難?当時の建築現場の状況とは
施工が困難と言われた東京都庁の建設工事、それは地下3階まである深さに加え、地上48階まである高層。
通常の建築とは大幅にかけ離れた大規模な建設な為、複数のゼネコンによるJVでの建築工事でした。
各ゼネコンから集い、計画するために何度も打ち合わせを行いましたが、建築工事工程にどうしても頭を悩めてしまう問題点が発生してしまいます。
その問題とはいったいどういった内容なのか、見ていきましょう。
複数の建築施工業者を使用する事による管理の増加
通常、建築工事の流れとして、ゼネコン側から下請け業者(施工業者)に施工を発注し、現場にて施工、ゼネコン側の確認、構造(意匠)設計による検査、是正、完了という1通りを繰り返していきます。
ですが、あまりにも規模が多い場合は施工業者を増やす必要があり、その分管理する事が増えてしまいます。
それによる従業員側の仕事量増加、そして施工業者が増える度に業者間同士での連携が難しくなります。
施工業者が増えるとその分管理も増え、検査回数も増えてしまうので建築施工工程に大幅な影響を与えてしまうといったリスクが発生する事になります。
東京都庁の建築ではJVで施工業者も増えてしまった為、大幅な工程ロス、仕事量の増加により困難になってしまったのです。
現場施工が難しい地下建築工事
通常の建物は杭工事、根切工事、基礎躯体工事を起こった後に上階への躯体を作っていきます。
ですが地下三階までとなると、地下三階分から更に基礎躯体の分までを値切り工事で掘削をしていかなければいけない為非常に時間がかかってしまいます。
更にRCでの地下躯体工事となる為型枠工事、鉄筋工事での施工となります。
地下3階までの深さがある中、地下に材料ヤードを作る事も難しく地上躯体でのRCより更に時間がかかってしまう、といった問題が起きてしまうのです。
また地下での躯体に打ち継ぎを複数作ると漏水の可能性が非常に高く危険な為、最低でも半分で区切る必要があります。
以上の事から地下躯体工事が非常に困難と、当時では判断されました。
施工困難を救った建築の大幅工業化
通常通りに躯体を作ると工程が間に合わない、建築現場におけるピンチ。
そこでこのピンチを乗り越える方法が現れました。
それは建築する躯体部分の大幅の部分を工業化するといった方法です。
この方法により施工業者への負担を下げ、仕事量の低減を図ったのです。
地下躯体の建築を簡略化したPC工法による工業建築技術
東京都庁の地下3階まである躯体、通常通りでは施工は難しい中、ある建築技術を使用する事で乗り越えました。
それはPC工法です、PC工法は構造図面に予め決められた躯体を柱、梁、壁、床毎に工場にて制作する事が可能な建築方法です。
制作工場より出荷、建築現場にて建て方という流れで、材料はトラックから直接クレーンで吊り上げる為、地下に資材ヤードを設ける必要をなくす事が出来ます。
この方法によって地下躯体をPC工法で行い工期の短縮、施工業者への負担を軽減させスムーズに地下躯体工事を行う事が可能になりました。
上階躯体の鉄骨建築にPC工法を混ぜ合わせる建築技術
東京都庁の上階躯体では鉄骨のほかにもRCでの躯体部分もいくつか存在しています。
中には鉄骨鉄筋コンクリートの躯体も存在しており、スムーズに進みにくい状況でした。
また、鉄骨が組みあがらなければRC躯体は施工ができず、そこでまた時間をロスしてしまう。
そこでそのRC躯体の分を、PC工法に変更したのです。
ですがどうやって鉄骨とPCをどうやって組み合わせるのか、それは建て方の順序です。
鉄骨を組んでる途中にPC工法で作った躯体をクレーンで取り付けていくのです。
これによって鉄骨の建て方と同時にPC躯体の取り付けを行う事ができ、問題が解消されました。
鉄骨建築に使われたスーパーストラクチャー構造
通常、鉄骨造であればそれを支える為の柱の本数を入れないといけません。
東京都庁の規模では通常であれば20本程入るはずなのですが、それだと建物の中にあちこちに柱が出てしまいますよね。
ですが実際の東京都庁の柱は東京都庁1棟につき8本しか建っていません。
これはスーパー柱と呼ばれており、通常の柱より強く作られています。
他にも10階毎に柱の本数を更に増やさないよう、スーパー梁と呼ばれる梁を使用し無柱空間を実現しています。
これをスーパーストラクチャー構造(方式とも呼ぶ)といい、本数を少なく、そして強度をしっかりと保つ事の出来る鉄骨構造を実現できる建築技術の1つです。
この構造は他にもフジテレビジョン本社等でも使用されており、今では鉄骨の大規模建築では必要不可欠な技術です。
最後に
東京都庁の建築は非常に困難だったのですが、施工する物を大幅に工業化するというアイデアで乗り切り無事に施工されました。
そしてこの東京都庁の重量なのですが、地上躯体である1階~48階の重量より地下1階~3階までの躯体の重量の方が重たいんです。
これは地下躯体はほとんどコンクリートで出来ているという事もあるのですが、地下での建築の場合は地下外壁の厚みを厚く、そして梁も大きく作られている為重量が大幅に上がっているようです。
これが工業化という発想が無ければ非常に大変な施工だったでしょう。
今では施工する物を工業化するという技術は多く使われています、今後は更なる建築の工業化も起こりうるのではないでしょうか。