横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
中銀カプセルタワービル(なかぎんカプセルタワービル)は、『フランス建築アカデミー』にて、1986年にゴールドメダルを受賞した黒川 紀章(くろかわ きしょう)氏の代表作ともいえる建物です。
カプセル状のハウスを積み重ねた特徴的な外観ですが、実際にカプセルを新しい物に組み換え可能な設計になっています。
しかし、竣工から長年経った現在でも、建物の構造上一部のカプセルだけを交換するのが難しいといった技術的な理由から、一度も交換されたことがありません。
生命原理をコンセプトに、黒川氏の提唱する「メタボリズム(新陳代謝)」を体現したアート性の高い建物は、日本のみならず、海外でも根強い人気を誇ります。
また、建物の老朽化と吹き付けアスベストが問題になり、一時期は建て替え問題で世間を騒がせた物件でもあります。それでも、名誉のある賞を受賞している黒川氏の代表作を、後世に残そうとする動きは令和になった現在でも活発です。
今回は、そんな独創的な意匠が特徴の中銀カプセルタワービルについて紹介していきます。
目次
奇抜なデザイン性と世界初の“カプセル建築”
画像引用:中銀カプセルタワービル|銀座|保存・再生プロジェクト
中銀カプセルタワービルは1972年に竣工した地上13階建てのワンルームマンションです。
建築物をあまり知らなくても、奇抜なデザイン性の当ビルをテレビや雑誌などで、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
「中銀」と名前にある通り、所在地は東京都中央区銀座になります。
当ビルは世界で初のカプセル建築を採用したビルです。1970年にビルを設計した建築家の黒川氏は、思想家としても知られており、世界各地で氏の提唱しているメタボリズムを基に設計された作品の数々は高い評価を受けています。
黒川 紀章の提唱する“メタボリズム”とは
画像引用:Kisho Kurokawa – Alchetron, The Free Social Encyclopedia
そもそも“メタボリズム”とは、黒川氏を筆頭に日本の若手建築家たちが集い、実施した建築運動のことです。
このとき、黒川氏は齢26歳という若さで建築業界に大きな風を吹かせました。
メタボリズムは元来の「機械の原理」と言われる固定化している形態や機能性とは違い、時代の状況に応じて、機能性や住居空間を柔軟に変化させられる「生命の原理」にフォーカスした建築でした。
その思想に基づいたデザインの代表作こそ、銀座のランドマークともいえる中銀カプセルタワービルです。
中銀カプセルタワービルの設計思想
画像引用:中銀カプセルタワービル見学ツアー
メタボリズム・グループが唱えたのは、”成長する社会とその変化、増加する人口などに合わせて、都市・建築も生物のように有機的な変化・成長をしていくべき”というものです。
中でも、この中銀カプセルタワービルは生き物の細胞が入れ替わるように、建築物も部屋を入れ替えて時代のニーズにあった価値を提供しようということを体現しています。
画期的な発想と合理性の高い思想に触発された建築家は多く、大手スーパーゼネコン『竹中工務店』との関わりが深い、槇 文彦(まき ふみひこ)氏や菊竹 清訓(きくたけ きよのり)氏、横浜ベイブリッジを構想した浅田 孝(あさだ たかし)氏など数々のビッグネームたちがいます。
そしてこの設計思想は、カプセル建築という部屋の一室を入れ替える独自の機構で取り入れられることになりました。
老朽化とアスベストの問題
画像引用:外壁がアスベストかどうかを見分ける方法と除去にかかる費用
世界初のカプセル建築の機能は、竣工から時間が経った現在でも一度も使用されることがありませんでした。
本来は25年ごとにカプセルの交換を想定していましたが、カプセル同士の位置が近いことなど、一つだけを交換するのが難しいと構造上の理由がありました。
結局、建物の設備が老朽化したことと、吹き付けアスベストの問題で、黒川氏の代表作は建て替えが検討されることになってしまいます。
老朽化したビルの建て替え問題
画像引用:銀座 中銀カプセルタワービル – 賃貸物件検索サイトSPACE CATALOG
問題として大きく取り上げられたのは、吹き付けアスベストの存在です。
アスベストは耐熱性や保温性に優れる反面、人体に悪影響を及ぼすとし、1975年9月に法令で吹き付けアスベストが禁止されました。
このことも起因し、単なる老朽化だけに留まらず、建て替える必要性が出てきたのです。
クラウドファンディングによる支援
画像引用:クラウドファンディング – MotionGallery (モーションギャラリー)
2007年にビルの区分所有者から建て替え工事の過半数以上の賛成票を獲得し、マンションの建て替えが決定し、多くのファンが肩を落としましたが、建築を担当するゼネコンが倒産してしまい、決議は無効になりました。
そして近年でも取り壊し反対派の声は根強く、2015年にクラウドファンディングでビジュアル・ファンブック出版の寄付を募ると、目標額の150万円を超えて200万円以上を集める結果になっています。
「世界遺産や重要文化財にするべき」と声をあげるファンは多く、ファンブックの出資で大きな成功を収めているのをみても、芸術的な価値を持つ建物として評価されているのが分かります。
まとめ
今回は中銀カプセルタワービルにスポットを当ててみました。
黒川氏が提唱したメタボリズムを設計思想に取り入れ、世界で初めてのカプセル建築を採用した建物ですが、その奇抜なデザインゆえにカプセルの交換が難しいという課題は今後も残り続けるのでしょうか。
さらに、アスベストの根本的な問題も残っており、屋内設備の老朽化も深刻なようです。部屋の所有者はリノベーション工事を施工することで、住みやすく工夫をしている方が多いのが現状だそうです。
今でもファンブックの刊行やツアーが開催されているなど、世界的にも評価されている当ビルは、映画「ウルヴァリン:SAMURAI」でも登場しています。
まだ実物を見学したことがない方は、この機会にいかかでしょうか?