横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
国土交通省では、建設現場での生産性向上に向けたi-Constructionの取り組みを推進するため、新工法や新材料を活用した技術開発を推進しています。
技術開発を推進している新工法の1つとして、3Dプリンターが注目を浴びています。
3Dプリンターが普及することにより省人化、コスト削減など大きな効果が期待されています。
この記事では、3Dプリンターとは何か、現在の3Dプリンターと建設業の関係、3Dプリンターを利用するメリットについてご紹介します。
目次
3Dプリンターとは
3Dプリンターとは、3DCADなどの3次元での設計データを用いてスライスされた層を積層して立体物を作り出すものです。
ソフト上で設計されたものをそのまま実現することが可能になるので使い方が大幅に増えています。
設計段階から試作やテストなどを行うことも可能になりますので、作業期間や工数を減らすことも可能でしょう。
一貫して3Dデータを使用して管理することになりますので管理コストが減ります。
建設業での3Dプリンターの現状
3Dプリンターの利用は、建築現場で実験が始まっています。
なぜなら、建築工事ではプレキャスト工法が多く用いられているからです。
一般的にコンクリート建築物では、現場でその建築物にあった型枠を作った後に、コンクリートを流し込んで建築物を作っています。
一方で、プレキャスト工法は、事前に工場にてコンクリート部材を生産しておき、建築現場に運搬して設置する工法です。
3Dプリンタを使った建築は、主にコンクリートを出力して作ります。
3Dプリンタを使ってプレキャスト部材を作ることで、職人不足でも対応できますし夜通しの作業も可能となるでしょう。
そのため、工期の短縮や施工ヤードの問題も解消することが期待されています。
ちなみに中国やドバイ、アメリカなどではモデル的な住宅が作成されていますが、日本ではほぼ事例がありません。
地震大国である日本の厳しい耐震基準を満たすには、鉄筋などを組み込む必要がまだあるため現状では難しいと言われています。
だからこそ住宅を作成するのではなく、プレキャスト部材を3Dプリンターで作成することがより現実的な選択なのでしょう。
建設業で3Dプリンターを用いるメリット
ここでは、7つのメリットをご紹介しましょう。
メリット①意匠性
3Dプリンターでは自由な発想で建築物を設計することができます。
なぜなら、工事の都合でできなかった形状を作成することができるからです。
3Dソフト上で設計ができることで、より意匠性を考慮して制作に当たることが可能になります。
メリット②省人化
3Dプリンターで製作が可能になれば、人による作業を省力化できます。
例えば、厳しい環境で働かざるをえなかった作業を3Dプリンタで製作が可能になれば、つらい作業をしなくても済むようになるでしょう。
人口減少や高齢化による技能労働者の減少を考えると、効率良く作業を進めることができることは歓迎すべきことです。
労働環境の整備や働き方改革により快適な労働環境を提供することが可能になります。
メリット③運搬作業の減少
3Dプリンターで加工済みの材料を搬入することで、運搬作業が少なくなります。
一般的な工事現場では、購入した材料ごとに建設現場に運び入れるため、現場で加工して使わなくなる部分も一緒に運び入れるので、運搬コストがかかります。
ですが、3Dプリンターで制作したある程度の大きさの材料をまとめて現場に運び入れることで、不要な運搬コストの削減が可能です。
メリット④コスト削減
メリット②の省人化が可能になれば、人件費が削減できるためコスト削減につながります。
労務費は工事費の1/4程度は必要になるため、労務費の割合を抑えることができれば、全体の工事費用の削減が可能です。
また、省人化やプロセスの減少により、予期せぬ問題や事故などが起こることを防げます。
問題や事故が減ることで抑えられる機会損失の費用も考えると、全体的なコスト削減効果は高いです。
メリット⑤端材の減少
3Dプリンターを使用することで、無駄な端材を減らすことが可能です。
建設現場での作業では、加工の際に端材が発生してしまいます。
建設材料の無駄な消費を減らし、地域環境の有効活用もできるでしょう。
現場加工であれば端材が発生することも考慮して工事金額を積算します。
無駄を省くことで端材にかかっていたコストも削減が可能です。
検査日数の削減
3Dプリンターを使うことで、完了検査や各段階での検査日数を削減することも可能です。
複雑な形状でも作業中に現場に行かなくても図面での検査や組み立て確認を行うことができますので作業効率のアップが考えられます。
例えば、プリンターから出てきた紙の文字が違う文字になっているということはありませんよね?ワードで入力した通りに出力されています。
ですので、現場に行かなくても図面で検査が可能になるのです。
完了検査でも各項目ごとの膨大な資料を提出しなくても良くなることが期待されています。
提出が減れば作成や管理する時間、コストともに大きく減るでしょう。
これからの3Dプリンター普及の見通し
3Dプリンターの開発は中国やアメリカ、UAEなどで先行しており、3Dプリンターを使った建物も実際に完成しています。
ですが、日本では建物への利用はすぐには行われないでしょう。
なぜなら、日本は地震大国であり建築基準法などの基準が厳しいからです。
しかし、他の国々で推進されていますので、他の国に負けじと開発が進められていくことが考えられます。
具体的には、セメント系素材をプリントするためのプリンターを開発していたり、意匠性に特化してプリンターを開発している企業があるようです。
日本での建築基準法を変えるとなれば、実験や規格策定などの手順を踏む必要がありますのですぐには採用されません。
それでも世界と技術競争している大手ゼネコンなどは、世界の技術競争に取り残されないように開発を進めています。
民間企業がしのぎを削っている一方、国土交通省としてもi-Construction推進のため助成金制度を定め、「政策課題解決型技術開発公募」によって企業の技術開発を促しています。
3Dプリンターの開発が進むことにより作業員不足の解消や施工精度向上につながれば、生産性向上にダイレクトにつながるでしょう。
まとめ
この記事では、3Dプリンターとは何か、現在の3Dプリンターと建設業の関係、3Dプリンターのメリットについてご紹介しました。
3Dプリンターを使えば製造プロセスの中での省力化でき、生産性の向上やコスト削減が期待できます。