【坂茂建築設計】富士山世界遺産センターの建築技術と魅力

富士山は2013年にユネスコ世界遺産委員会により「富士山一信仰の対象と芸術の源泉」として世界遺産に登録されました。富士山は日本人の自然観や文化に大きな影響を与えています。

富士山世界遺産センターはそんな富士山の歴史と魅力を伝える施設です。

世界的に活躍する建築家の坂茂さんが設計し、建築物には富士山の物語がふんだんに散りばめられています。

今回は坂茂氏が設計した富士山世界遺産センターの建築技術と魅力をご紹介します。

富士山世界遺産センターとはどんな建物?

富士山世界遺産センターは「世界遺産条約」に規定する、世界遺産を「保護し、保存し、整備しおよび将来の世代へ伝えることを確保する」拠点施設として建てられました。

建物は北東、西棟、展示棟の3つに分かれます。3つの棟はガラスのカーテンウォールで繋がっています。

展示は1階から5階(最上階)を繋ぐらせんスロープを登りながら展示物を鑑賞することができます。展示棟の木格子は県産材を使用、富士の湧き水を利用して省エネ化も図られています。

富士山世界遺産センター概要

静岡県富士山世界遺産センター概要
建築主 静岡県
設計 株式会社坂茂建築設計
名称 静岡県富士山世界遺産センター
所在地 静岡県富士宮市宮町5-12
開館日 2017年12月23日
敷地面積 約6,100㎡
建築面積 約2,000㎡
延床面積 約3,400㎡
最高高さ 18.515m
階数 地上5階
構造 鉄骨造
工期 2016年3月~2017年11月
地区・地域 都市計画区域、準防火地域、富士山等眺望保全地域

静岡県富士山世界遺産センターのシンボルマークの意味

富士山世界遺産センターは基本コンセプトの「守る」「伝える」「交わる」「究める」に加え、富士山への畏敬、関心という思いを込めて5本の柱で富士山を表しています。

シンボルマークは静岡文化芸術大学デザイン学部の佐井研究室の方達が共同で制作。シンボルマークの四角の枠は学問と大地を象徴。

富士山学を通して、線が四角を飛び出すことで、大地の下まで広がる富士山とセンターの繁栄を意味しています。

富士山世界遺産センター設計者である建築家の坂茂氏とは?

富士山世界遺産センターを設計した建築家は、世界でも活躍する坂茂さんです。

建築家の坂茂さんは紙菅、コンテナなどを利用した建築や災害支援活動で知られ、建築のノーベル賞とも呼ばれる建築分野の国際的な賞であるプリツカー賞を2014年に受賞しました。

東日本大震災の被災地で紙菅による仮設住宅を提供し、95年から99年まで国連難民高等弁務官事務所のコンサルタントを務め、ルワンダ難民のために紙管で作ったシェルターを提案しました。

富士山世界遺産センターではシアターの天井に紙管を採用。紙管は不燃認定をとって波を打たせるようにして仕上げられています。

富士山世界遺産センターの建築技術と魅力

富士山を眺望できる富士山世界遺産センターは様々な魅力と工夫がされています。

ここでは富士山世界遺産センターの魅力を一つずつご紹介していきます。

象徴的な逆さ富士の構造と水盤に浮かぶ富士の姿

建物正面には木格子の外壁を持つ「逆さ富士」が印象的に映ります。

外観から見える逆さ富士には水盤が設けられており、水盤に映り込むと水面に富士山の姿を現します。

逆さ富士の構造は底部の直径10m、上部直径46m、高さ46mの楕円形に広がり広大な屋根を支えています。

この構造は建物全体の長期荷重や地震荷重への抵抗のため、ラチス状の鉄骨で効率的に構成しています。

中央のコアやらせん状のスロープ、鉄骨間柱と合わせて全体の安定性を確保しています。

富士の湧き水を活用してエネルギー消費量を20%削減

富士山世界遺産センターの計画初期の調査で富士山の湧き水は年間を通して15℃の水温を維持していることがわかりました。

この湧き水を利用し、敷地に湧き水を引き込み、空調熱源として利用しています。

空調熱源として湧き水を利用することによってエネルギー消費量の20%を削減することが実現されています。

さらに、空調熱源として利用した後に建物前面の水盤に利用し、富士の水の循環を建築的に表現しています。

らせんスロープで富士山の擬似登山を体験しながら展示を観賞

建物の中心にある展示棟は、木格子を組み上げた逆円錐状「逆さ富士」の形にデザインしています。

訪問者は、まず逆さ富士の鮮やかさに大きな印象を受けるでしょう。

木格子は地域のブランド材「FUJI HINOKI MADE」を使用。それぞれ形の違う800のピースから組み合わせて作られています。

逆さ富士の中は全長193mのらせんスロープがあり、1階から5階(最上階)まで続いています。

らせんスロープを登りながら壁にプロジェクターで映像を当てた展示を鑑賞することができて、富士山の疑似登山を体験できます。

一枚の絵のように富士山を眺められるピクチャーウィンドウ

富士山の登山体験をして最上階に行くと頂上には本物の富士山を眺められるスペースがあります。

富士山を一枚の絵のように切り取るクチャーウィンドウ。ここでは刻々と表情を変える本物の富士山を鑑賞することができます。

まとめ

富士山世界遺産センターは富士山を象徴する物語がつめこまれた想像豊かな建築物です。

建物前面にある逆さ富士が水盤に映ると、富士山が姿を現す演出は、富士山の偉大さを感じさせます。

展示棟のスロープを登り、富士山の登山を擬似体験した後、最上階から眺める富士山は登る前に持っていた印象を違った形で与えてくれるでしょう。