労働者の仕事と家庭の両立を実現するために、育児休業制度などの取組を実施する事業主に対し助成金を支給する制度の1つに「出生時両立支援コース」というものがあります。
このコースの対象となる労働者は女性ではなく男性なのですが、なぜ男性だけなのでしょうか?
この記事では、この「出生時両立支援コース」の内容と、なぜ男性だけが対象なのか、現在の男性労働者の育休取得率の実情などを交えてご説明します。
どうして対象となる労働者が男性だけなのか?
厚生労働省では、平成22年度から「イクメンプロジェクト」を実施しているのですが、ご存知でしょうか?
このプロジェクトの目的は、
「男性の育児休業取得や育児短時間勤務の利用を契機とした、職場内の業務改善や働き方の見直しによるワーク・ライフ・バランスの実現」
「男性の育児に参画したいという希望の実現や育児休業の取得促進、女性の継続就業率と出生率の向上」
です。
2018年度の男性の育児休業取得率は6.16%です。この「イクメンプロジェクト」の後押しもあり、年々少しずつではありますが、その数字が増えています。
2020年度には13%達成を目標として、様々な取組を実施しており、この「出生時両立支援コース」もその1つなのです。
「出生時両立支援コース」の趣旨
厚生労働省発行の支給要領によれば、
「男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りに取り組み、男性労働者にその養育する子の出生後8週間以内に開始する育児休業を利用させた事業主及び育児目的休暇を導入し男性労働者に利用させた事業主に対して助成金を支給することにより、職業生活と家庭生活の両立支援に関する事業主の取組を促し、もってその労働者の雇用の安定に資することを目的とする。」
参考:厚生労働省 支給要領
とあります。
最初の文章に注目してください。「男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作り」とあります。
これは、男性に限ったことではなく、職場によってはすでに制度化されている女性労働者の育休取得でも、「育休が取りづらい職場」があり、結果として女性の離職を後押ししているのです。
上の表を見て頂くとわかる通り、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」「会社で育児休業制度が整備されていなかった」「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」が男女ともに高く、
いかに事業所内での育児休業制度の整備と風土作りがなされていないのかが明白です。
この様な実態を改善し、育児休業制度の整備と風土作りに力を入れ、特に男性労働者の育児休業取得を促進する取り組みをする事業主を増やすことが、この制度の目的であり趣旨なのです。
男性の育児休暇の実情
この2つの表は、厚生労働省の報道発表資料の1つ「平成30年度雇用均等基本調査(速報版)」に添付されている資料からの抜粋です。
まず、「育児休業取得率の推移」を見てみると、男性労働者の育休取得率が年々上がっていることが分かります。しかしながら、女性が80%を超えているのに対しわずか6.16%しかありません。
さらに下の表「第1表育児休業者割合」の産業別を見ると、建設業では女性で59.1%、男性で3.34%とかなり低いことが分かります。
他の業種と比べても男女ともに低い数字であることが分かります。
この様に、平成30年度に発表された数字を見る限り、建設業における育児休業に対する考え方の低さが露呈していると言わざるを得ません。
助成金の支給対象
この「出生時両立支援コース」では、以下の助成金の支給と加算があります。
- 育児休業:男性労働者について育児休業の利用実績が合った場合
- 個別支援加算:1番の「育児休業」対象となる男性労働者に対し、育児休業の取得前に育児休業取得の積極的な取り込みを行った場合
- 育児目的休暇:育児目的休暇制度を導入し、男性労働者について、利用実績が合った場合
引用:厚生労働省発表 支給要領
では、この助成金の対象となるのはどのような事業主なのでしょうか?ここでは、支給対象となる要件についてご説明します。
対象となる事業主は?
対象となる事業主の要件は、先にご紹介した助成金の種類によって違います。それぞれ確認していきましょう。
共通要件
まずは、共通要件です。
厚生労働省発行の支給要領によれば、以下の3つの要件いずれにも該当する事業主が対象としています。
- 育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業制度及び育児のための短時間勤務制度について、労働協約又は就業規則に規定していること。
- 次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)第12条第1項の規定に基づく一般事業主行動計画を策定し、その旨を都道府県労働局長に届け出ており、申請時において当該行動計画が有効なものであること。
- 対象男性労働者について、育児休業については対象となる育児休業開始日、育児目的休暇については育児目的休暇取得日から申請日までの間、雇用保険被保険者として持続して雇用していること。
1番と2番では、法律名が書かれているため分かりづらかったり、読みづらかったりするかと思います。
簡単に言えば、1番は育休制度について労働協約や就業規則に規定しているか否かで、2番は育休制度を導入する前に一般事業主行動計画の届け出をしているか否かで支給対象になるというものです。
一般事業主行動計画については、厚生労働省のHPで策定方法と届けについて説明していますのでご確認ください。行動計画の届出様式もこのページからダウンロードできます。
「男性労働者の育児休業」の要件
「出生時両立支援コース」の内、育児休業で助成金申請をする場合は、以下の要件を満たす必要があります。
- 男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りの取組を行っていること。
- 雇用保険の被保険者として雇用する男性労働者が、連続して14日以上の育児休業を取得したこと。
- 中小企業事業主の場合は連続して5日以上
- 育児休業取得の直前及び職場復帰時において在宅勤務している場合については、個別の労働者との取り決めではなく、在宅勤務規程制度について周知されており、業務日報等により勤務実態が確認できる場合に限ること。
これらの要件は要約したものです。細かい内容は支給要領で確認してください。
「育児目的休暇」の要件
育児目的休暇で助成金申請をする場合は、以下4つの要件すべてに該当する必要があります。
- 育児目的休暇の制度を新たに導入し、労働協約又は就業規則への規定、労働者への周知を行い、利用者が生じた事業主であること。
- 男性労働者が育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りの取組を行っていること。
- 雇用保険の被保険者として雇用する男性労働者が、子の出生前6週間から出生後8週間の期間中に、当該男性労働者1人につき合計として8日以上の所定労働日に対する育児目的休暇を取得したこと。
- 中小企業事業主の場合は5日以上
- 育児目的休暇取得の直前及び職場復帰時において在宅勤務している場合については、個別の労働者との取り決めではなく、在宅勤務規程を整備し、業務日報等により勤務実態が確認できる場合に限ること。
これら要件の詳細は、支給要領で確認できます。
支給されない事業主は?
上記要件を満たす事業主であっても、以下のどちらかに該当する場合は助成金不支給となります。
- 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律および女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の重大な違反があることにより、当該事業主に助成金を支給することが適切でないと認められる場合
- 支給申請時点で育児・介護休業法に違反し、同法第56条に基づく助言又は指導を受けたが是正していない場合
この2つの要件は、どちらも法令違反をしているか否かがカギとなります。雇用に関する法律について違反をしていないのであれば、助成金を受給できる可能性が高くなります。
また、この他にも助成金全般に共通して不支給となる要件がありますので、事前にしっかりと確認しておきましょう。
支給額と支給申請
男性労働者の育休制度を整備し、全ての労働者に対して周知したうえで、育休取得をした男性労働者がいた場合、支給申請が出来ます。
ここでは、申請に必要な書類と助成金の支給額、支給申請期限についてご説明します。
男性労働者の育児休業
まずは、「男性労働者の育児休業」についてご説明しましょう。
この取り組みの場合、対象となる男性労働者に対して個別面談の実施や、対象労働者の直属の上司等に休業取得に関する説明などの取組を実施することで、助成金が加算されます。
支給額についてはこの加算額と取組についてもご説明します。
支給額
支給されるためには、以下の措置をとらなければなりません。
- 男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りの取組
- 男性労働者の育児休業取得に関する管理職や労働者向けの研修の実施
- 男性労働者を対象にした育児休業制度の利用を促進するための資料配布等
- 男性労働者の育児休業取得促進について企業トップ等から社内呼びかけ及び厚生労働省のイクメンプロジェクト内の「イクボス宣言」や「イクメン企業宣言」による外部への発信
- 育児休業を取得した男性労働者の事例の収集及び社内周知
- 育児休業取得
- 連続した14日以上の育児休業であること
- 中小企業事業主は連続した5日以上
- 子の出生後8週間以内に開始していること
- 育児休業取得の直前及び職場復帰時において在宅勤務している場合については、個別の労働者との取決めではなく、在宅勤務規程を整備し、業務日報により勤務実態が確認できること
- 連続した14日以上の育児休業であること
この措置についての詳細は、厚生労働省配布のパンフレット「令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内」で確認できます。
支給額は表にまとめました。金額は、育児休業を取得した労働者1人当たりの金額です。1企業当たり1年度に支給されるのは10人までです。
中小企業 | 中小企業以外 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
育休日数 | 支給額 | 生産性要件 | 育休日数 | 支給額 | 生産性要件 | |
1人目の育休取得 | 570,000円 | 720,000円 | 285,000円 | 360,000円 | ||
2人目~10人目 | 5日以上 | 142,500円 | 180,000円 | 14日以上 | 142,500円 | 180,000円 |
14日以上 | 237,500円 | 300,000円 | 1か月以上 | 237,500円 | 300,000円 | |
1か月以上 | 332,500円 | 360,000円 | 2か月以上 | 332,500円 | 420,000円 |
「1人目の育休取得」とは、育休制度の導入後最初に育児休業を取得した労働者が対象で、要件となる休業日数以上の育児休業を取得すれば休業期間に関係なく一律支給されます。
2人目の利用者以降は、休業期間に応じて支給額が変わります。
この支給額に、個別支援を実施することで支給額が加算されます。
- 対象男性労働者に対して、育児・介護休業法第21条に基づき育児休業に関連する制度に関する事項を、メール等又は書面により対象男性労働者に個別に知らせること
- 対象男性労働者に対し、育児級売業取得を促すための個別面談を行うこと
- 対象男性労働者の上司に対し、対象男性労働者に育児休業取得を促している旨の説明を行うこと
- 上司に対し、対象男性労働者に明示した1番の書面等を明示すること
これらの取組全てを実施すれば、以下の加算があります。
中小企業 | 中小企業以外 | |||
---|---|---|---|---|
加算額 | 生産性要件 | 加算額 | 生産性要件 | |
1人目の育休取得 | 100,000円 | 120,000円 | 50,000円 | 60,000円 |
2人目~10人目 | 50,000円 | 60,000円 | 25,000円 | 30,000円 |
表内の「生産性要件」は、雇用関係助成金の受給を希望する事業主が、各助成金の内容に沿った取組を実施することで生産性が向上したことを証明できた場合に支給されるものです。
詳細については「令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内」11pで確認できます。
支給申請期限

画像引用:「令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内」251p
支給申請期限は、1人目の利用者と2人目以降の利用者で違いがあります。
【1人目の場合】
- 中小企業:要件を満たす育児休業の開始から起算して5日を経過する日の翌日から2か月以内
- 中小企業以外:要件を満たす育児休業の開始日から起算して14日を経過する日の翌日から2か月以内
【2人目以降】
企業規模 | 休業日数 | 申請期間 |
---|---|---|
中小企業 | 5日以上14日未満 | 育児休業開始日から起算して5日を経過する日の翌日から |
14日以上1か月未満 | 育児休業開始日から起算して14日を経過する日の翌日から | |
1か月以上 | 育児休業開始日から起算して1か月を経過する日の翌日から | |
中小企業以外 | 14日以上1か月未満 | 育児休業開始日から起算して14日を経過する日の翌日から |
1か月以上2か月未満 | 育児休業開始日から起算して1か月を経過する日の翌日から | |
2か月以上 | 育児休業開始日から起算して2か月を経過する日の翌日から |
「~日経過する日の翌日から」2か月以内が支給申請の期限です。
申請書類
申請書類は、厚生労働省のHPからダウンロードできます。また、雇用関係助成金すべてに共通した共通要領の様式も厚生労働省のHPからダウンロードできます。
【申請書類】
- 共通要領様式第1号「支給要件確認申立書」
- 支払方法・受取人住所届
- 様式第1号①「両立支援等助成金(出生時両立支援コース(育児休業)支給申請書)
- 様式第1号②「出生時両立支援コース(育児休業)詳細
- 様式第1号③「両立支援助成金(出生時両立支援コース(育児休業/個別支援加算))支給申請書
申請書類の内、5番の書類は「個別支援加算」の申請を行う場合のみ提出します。
【添付書類】
- 労働協約又は就業規則及び関連する労使協定
- 男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りの取組の内容を証明する書類及び取組を行った日付が分かる書類
- 対象育児休業取得者の育児休業申出書
- 対象育児休業取得者の育児休業前1か月分の就業実績及び支給要領で定める期間について休業したことが確認できる書類
- 対象育児休業取得者の労働契約期間の有無、育児休業期間の所定労働日が確認できる書類
- 対象育児休業取得者に育児休業に係る子がいることを確認できる書類及び当該この出生日が確認できる書類
- 管轄労働局長の認定を受けた「一般事業主行動計画策定届出様式」の写し
【個別加算の場合の添付書類】
- 対象労働者や上司に明示した書類
- 対象男性労働者と上司の部署・体制が確認できる書類
最初の申請では、これらの添付書類全て準備する必要があります。2人目以降の申請の場合、以下の書類を提出することで添付書類の一部を免除されます。
- 様式第3号「提出を省略する書類についての確認書(出生時両立支援コース)」
なお、添付書類の詳細については支給要領を確認してください。
育児目的休暇
「育児目的休暇」の支給申請をする場合、先ほどの「男性労働者の育児休業」の様な加算はありません。
支給額
支給されるには、以下の措置をすべて実施する必要があります。
- 育児目的休暇制度の導入
- 男性労働者が育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りの取組
- 育児目的休暇の取得
細かい内容については、「令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内」248p~249pで確認できます。
中小企業 | 中小企業以外 | |
---|---|---|
支給額 | 285,000円 | 142,500円 |
生産性要件を満たす場合の支給額 | 360,000円 | 180,000円 |
支給は1事業主当たり1回のみです。
支給申請期限

画像引用:「令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内」251p
育児目的休暇は、連続して取得する必要はなく、上の図の様に2回に分けて取得することも可能です。
規定されている休暇日数は、中小企業で合計5日以上、中小企業以外では合計8日以上です。
支給申請は、中小企業の場合は合計5日が経過した日の翌日から、中小企業以外の場合は合計8日が経過した日の翌日から2か月以内です。
申請書類
提出する申請書類は、共通要領様式と出生時両立支援コース独自の様式の書類が必要となります。どちらも厚生労働省のHPからダウンロードできます。
【申請書類】
- 共通要領様式第1号「支給要件確認申立書」
- 支払方法・受取人住所届
- 様式第2号①「両立支援助成金(出生時両立支援コース(育児目的休暇))支給申請書」
- 様式第2号②「出生時両立支援コース(育児目的休暇)詳細」
【添付書類】
- 労働協約又は就業規則及び関連する労使協定
- 男性労働者が育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りの取組の内容を証明する書類及び取組を行った日付が分かる書類
- 対象育児目的休暇取得者の育児目的休暇申出に係る書類及びその取得実績が確認できる書類
- 対象育児目的休暇取得者の育児目的休暇を取得した期間の所定労働日が確認できる書類
- 対象育児目的休暇取得者に当該休暇取得に係る子がいることを確認できる書類及び当該この出生日又は予定日が確認できる書類
- 管轄労働局長の認定を受けた「一般事業主行動計画届出書」の写し
「育児休業」の申請と同時にこの「育児目的休暇」の申請を行う場合、下記の書類を添付することで一部重複する添付書類を省略することが出来ます。
- 様式第3号「提出を省略する書類についての確認書(出生時両立支援コース)」
添付書類の詳細については支給要領をご確認ください。
まとめ
以上、「両立支援助成金」の1つ「出生時両立支援コース」についてご説明しました。これらについての詳細は、厚生労働省が発行している以下の資料で確認できます。
また、男性労働者の育児休業を促進するための取組として、「イクメンプロジェクト」を実施しています。公式サイトもあり、既に男性労働者の育児休業制度を実施している企業の実例や取組などもありますので、是非参考にしてみてください。
最初にご説明した通り、建設業における育児休業や育児目的休暇はまだまだ浸透しておらず、特に男性労働者の育児休業取得が進んでいません。
この記事を読んだことで少しでも育児休業制度に興味を持ち、その制度を導入してくださる企業が増えることを期待します。
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