厚生労働省が実施している助成金の内、有期雇用労働者等に対する事業主の取組に対し助成する制度の1つが、「キャリアアップ助成金」制度です。
この「キャリアアップ助成金」には7つのコースがあり、それぞれのコースに応じて雇用形態の転換や賃金の見直しなどといった取り組みがあります。
今回ご紹介する「賃金規定等共通化コース」は、有期雇用労働者等の賃金を同じ職務をしている正規雇用労働者と同等レベルに引き上げることで、助成される制度です。
では、詳しくご紹介しましょう。
賃金規定等共通化コースの目的
まずは、「賃金規定等共通化コース」の目的・概要です。
目的
パートタイム従業員や契約社員の中には、家庭の事情で有期雇用という形態で働いているだけで、能力的には正規雇用労働者と変わらないという方も少なくありません。
また、正規雇用労働者として働けるのか、それとも有期雇用労働者等になるのかは、残念ながらその方が就職する時の、世間全体の経済状況に左右されます。
ということは、やる気も能力もあるのに、正規雇用労働者として働く機会を与えられなかったという方も実は少なくないのです。
そして、賃金規定を見ると、能力が有っても有期雇用労働者等というだけで、正規雇用労働者の方に比べ低い賃金で働いている方も少なくありません。
同じ業務・仕事をしているのに、雇用形態が違うだけで賃金に差があるということは、有期雇用労働者等の仕事に対するモチベーションを下げる可能性が大いにあり、結果として事業所内の生産性を下げてしまうのです。
「賃金規定等共通化コース」は、そんな有期雇用労働者等の賃金規定を改定し、正規雇用労働者と同等の賃金を受け取れるようにすることで、仕事に対するモチベーションを上げ、事業所内の生産性を向上させることが目的です。
概要
「賃金規定等共通化コース」の支給要領には、「労働協約または就業規則の定めるところにより、その雇用する有期雇用労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成します」とあります。
つまり、就業規定等を、有期雇用労働者等と正規雇用労働者の賃金が同程度になるように、改定または新規作成して、適用することを求めています。
支給対象は?
では、支給対象となるのは、どのような取り組みで、どのような事業主なのでしょうか?
対象となる事業主は?
対象となる事業主は、以下10個の要件全てに該当する事業主です。
- 労働協約または就業規則の定めるところにより、その雇用する有期雇用労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに設け、賃金規定等の区分に対応した基本給の賃金の待遇を定めている事業主であること
- 正規雇用労働者に係る賃金規定等を、新たに作成する有期雇用労働者等の賃金規定等と同時またはそれ以前に導入している事業主であること
- 当該賃金規定等の区分を有期雇用労働者等と正規雇用労働者についてそれぞれ3区分以上設け、かつ、有期雇用労働者等と正規雇用労働者の同一の区分を2区分以上設け、その内1区分以上を適用している事業主であること
- 上記3番の同一区分における、有期雇用労働者等の基本給など職務内容に密接に関連して支払われる賃金の時間当たりの額を、正規雇用労働者と同額以上とする事業主であること
- 当該賃金規定等が適用されるための合理的な条件を労働協約または就業規則に明示した事業主であること
- 当該賃金規定等をすべて有期雇用労働者等と正規雇用労働者に適用させた事業主であること
- 当該賃金規定等を6ヶ月以上運用している事業主であること
- 当該賃金規定等の適用を受けるすべての有期雇用労働者等と正規雇用労働者について、適用前と比べて基本給および定額で支給されている諸手当を減額していない事業主であること
- 支給申請日において当該賃金規定等を継続して運用している事業主であること
- 生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たした事業主であること
これらの内容を簡単に説明すると、「能力に応じた等級制度を設け、その等級に合わせた賃金規定を設定し、この助成金の支給を受けるまで運用し続けている事業主であること」となります。
この、賃金規定の等級等については、以下「何をすれば支給される?」で詳しくご説明します。
対象となる労働者は?
対象となる労働者は、以下の5つの要件全てに該当する方です。
- 労働協約または就業規則の定めるところにより、賃金に関する規定または賃金テーブル等を共通化した日の前日から起算して、3ヶ月以上前の日から共通化後6ヶ月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等であること
- 正規雇用労働者と同一の区分に格付けされているものであること
- 賃金規定等を共通化した日以降の6ヶ月間、当該対象適用事業所において、雇用保険被保険者であること
- 賃金規定等を新たに作成し、適用した事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること
- 支給申請日において離職していない者であること
何をすれば支給される?
画像引用:厚生労働省 キャリアアップ助成金パンフレット 44p
「賃金規定等共通化コース」で助成金を受給されるためには、正規雇用労働者だけでなく有期雇用労働者等の賃金規定も設ける必要があります。
厚生労働省配布のパンフレットには、賃金規定の一例が掲載されています。
例えば、この表の4等級「月給■■万円」を25万円として考えてみましょう。
青色の枠に囲われている「★換算・比較方法★」にのっとって計算しています。
<条件>
・正規雇用労働者の月給:25万円
・1日の所定労働時間:8時間
・週の所定労働日数:5日(週休2日制)
<計算式>
25万円÷(8時間×(5日×52÷12))=1,442.307円
小数点以下は切り捨てますので、月給25万円の方の場合、時給換算すると1,442円となります。
「賃金規定等共通化コース」では、この「★換算・比較方法★」で算出された正規雇用労働者の時給が、同じ等級の有期雇用労働者等の時給よりも同等若しくは、低くなければなりません。
つまり、1,442円≦有期雇用労働者等の時給 となるのです。
また、「賃金テーブル等が適用されるための合理的な条件」という表にあるように、その職務に応じて「これが出来れば何級」といった、職務能力の等級表も設ける必要があります。
既に、この様な等級制度を設けている場合は、以下の様に変更します。
- 正規雇用労働者の等級が3等級以上設けられている
- 有期雇用労働者等の等級が3等級以上設けられている
- 正規雇用労働者と有期雇用労働者等の等級が、2等級以上同一であること
- 同一区分の内、1つ以上が適用されていること
上の表では、6等級(区分)設けられ、正規雇用労働者は3等級~6等級、有期雇用労働者等は1等級~4等級と、それぞれ4等級設けられ、更に3等級と4等級が同一となっています。
支給要件を満たすには、正規雇用労働者と有期雇用労働者等ともに、3等級・4等級どちらかの適用が必要となります。
また、支給要件を満たすには、同一の等級に正規雇用労働者の適用がなければなりません。
そして、この賃金規定を6ヶ月間運用し、さらに支給申請をする時も続けて運用している場合に、受給することが出来ます。
また、この賃金規定を設けるにあたり、基本給や固定で支給される諸手当を減額した場合は、助成金の支給対象から外れてしまいます。
支給申請と支給額
さて、賃金規定等を改定し、実施した後の支給申請はいつごろ行えばいいのでしょうか?また、書類は何を提出すればいいのでしょうか?
ここでは、支給申請に必要な書類や支給時期、支給額についてご説明します。
支給申請期間
画像引用:厚生労働省 キャリアアップ助成金パンフレット 46p
支給申請期間は、対象労働者の賃金規定等共通化後、当該賃金規定等の共通化後6ヶ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2ヶ月以内です。
申請書類と添付書類
「キャリアアップ助成金」では、全てのコースについて、それぞれの取組を実施する前に「キャリアアップ計画書」の提出を求められています。
管轄労働局長の認定を受けてから、その計画書の内容に沿って取組を実施します。
【キャリアアップ計画書】
- 様式第1号「キャリアアップ計画書」
- 様式第2号「キャリアアップ計画書(変更届)」
変更届は、計画に変更がある場合のみ、提出します。
【申請書類】
- 様式第3号「キャリアアップ助成金支給申請書」
- 様式第3号 別添様式4「賃金規定等共通化コース内訳」
【添付書類】
- 共通要領様式第1号「支給要件確認申立書」
- 支払方法・受取人住所届
- 管轄労働局長の認定を受けた「キャリアアップ計画書」の写し
- 賃金規定等が規定されている労働協約または就業規則および賃金規定等が規定される前の労働協約または就業規則
- 常時10人未満の労働者を使用する事業主が、賃金規定等を規定する前の労働協約または就業規則を作成していなかった場合は、その旨を記載した申立書
- 当該適用事業所の有期雇用労働者等と正規雇用労働者が賃金規定等の適用を受けていることを証明するものであって、労働者ごとに賃金規定等の区分を示していることが確認できる一覧表
- 労働者名簿等の場合、労働者ごとに賃金規定等の区分を示している必要がある
- 同一区分が適用されている対象労働者全員および、正規雇用労働者1人の共通化前および共通化後の雇用契約書等
- 対象労働者が21人を超える場合は、21人まで
- 同一区分が複数ある場合、各同一区分から正規雇用労働者1人とする
- 同一区分が適用されている対象労働者全員および、正規雇用労働者1人の賃金台帳または船員法第58条の2に定める報酬支払簿
- 対象労働者が21人を超える場合は、21人まで
- 同一区分が複数ある場合は、各同一区分から正規雇用労働者1人とする
- 賃金規定等共通化前の3ヶ月分および、賃金規定等共通化後6ヶ月分
- 同一区分が適用されている対象労働者全員の出勤簿等
- 21人を超える場合は21人まで
- 賃金規定等共通化後の賃金の算定となる初日の前日から、過去3ヶ月分および賃金規定等共通化後の賃金規定の算定となる初日から6ヶ月後
- 適用後6ヶ月分の賃金が支給されていることについて、同一区分が適用されている対象労働者全員、本人の確認書
- 勤務をした日数が11日未満の月は除く
- 時間外手当等を含んだ賃金
- 21人を超える場合は、21人まで
- 中小企業事業主である場合、中小企業事業主であることを確認できる書類
- 企業の資本の額または出資の総額により中小企業事業主に該当する場合
- 登記事項証明書、資本の額または出資の総額を記載した書類等
- 企業全体の常時雇用する労働者の数により中小企業事業主に該当する場合
- 様式第4号「事業所確認表」
- 企業の資本の額または出資の総額により中小企業事業主に該当する場合
- 生産性要件に係る支給申請の場合の添付書類
- 共通要領様式第2号「生産性要件算定シート」
- 算定の根拠となる証拠書類
- 損益計算書、総勘定元帳、確定申告書Bの青色申告決算書、収支内訳書 等
最後の11番は、生産性要件による加算を希望される方のみ提出します。
また、これら書類のほか、労働局が必要と認める書類の提出を求められることもあります。
支給額
支給額は、以下の通りです。
- 中小企業等:570,000円(生産性要件:720,000円)
- 大企業:427,500円(生産性要件:540,000円)
支給は、1事業所当たり1回のみです。
ただし、対応人数が2人以上いる場合は、2人目から支給額が加算されます。
- 中小企業等:20,000円(生産性要件:24,000円)
- 大企業:15,000円(生産性要件:18,000円)
2人目からの加算は、1人当たりの金額です。また、支給申請できる加算人数は20人までとなります。
人数加算の判定方法は、以下の表をご確認ください。
画像引用:厚生労働省 キャリアアップ助成金パンフレット 46p
上の表から、4等級のEさんは4等級が適用されている正規雇用労働者がいないため、助成金の支給対象となりません。
3等級にはAさんという正規雇用労働者が適用されているので、Bさんが助成金の支給対象となり、同じ等級にいるCさんとDさんが加算対象となります。
まとめ
労働者が仕事にやりがいを持つか否かは、もらえる賃金に左右されることがあります。
もちろん、賃金が安くても関係なく仕事に対するモチベーションを持ち続ける方もいますが、多くの方は賃金に左右されるのです。特に、他人と比べて自分の賃金が安いと感じた場合、モチベーションを下げやすい傾向にあります。
「賃金規定等共通化コース」では、同じ内容の仕事をしている正規雇用労働者と有期雇用労働者等の賃金が同等となるか、有期雇用労働者等の方が多少多くなるように賃金規定を改定し、実施することで助成される制度です。
これにより、本来能力が高い有期雇用労働者等のやる気を引き出し、生産性を向上させるだけでなく、優秀な人材の確保にもつながるのです。
事業所内の生産性向上を考えているなら、この「賃金規定等共通化コース」を活用してみてはいかがでしょうか?
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