有期雇用労働者や派遣労働者など、非正規雇用労働者の処遇改善やキャリアアップのための取組を実施した事業主に対し、助成する制度が「キャリアアップ助成金」です。
その「キャリアアップ助成金」の「正社員化コース」は、非正規雇用労働者の方を正社員として雇用した事業主に対し、助成金を支給します。
ここでは、その「正社員化コース」について詳しくご紹介しましょう。
正社員化コースの目的
「正社員化コース」という助成金は、先ほどもご説明した通り、非正規雇用労働者を正社員として雇用した場合に受給できます。
では、ただ正社員として雇用すればいいのでしょうか?
ここではこの「正社員化コース」の目的についてご説明します。
目的
非正規雇用労働者の多くは、その雇用形態から仕事に対するモチベーションを持つことが出来ず、更に自身のキャリアアップに対する意欲が持てずにいます。
その結果、事業所内の生産性の低下にもつながっているのです。
この「正社員化コース」という助成金を使って、非正規雇用労働者を正規雇用に転換することで不安定な雇用を解消し、非正規雇用労働者の仕事に対するモチベーションを向上させることで事業所内の生産性の向上につなげることが、この助成金の目的です。
概要
厚生労働省が発表している「キャリアアップ助成金」のパンフレットによれば、「正社員化コース」の概要は以下の様に記述されています。
「有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に助成」
正規雇用だけでなく有期雇用労働者を無期雇用に転換した場合にも、助成対象です。次の章から詳細をご説明します。
支給対象は?
ここからは、支給対象となる事業主や労働者についてご紹介します。
対象となる事業主は?
対象となるのは、以下2つのどちらかに該当する事業主で、かつ、それぞれの16項目の要件全てに該当する事業主です。
16項目については、パンフレットの17Pをご確認ください。
- 有期雇用労働者を正規雇用労働者、または無期雇用労働者に転換する場合、および、無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する場合
- 派遣労働者を正規雇用労働者、または無期雇用労働者として直接雇用する場合
対象となる労働者は?
この「正社員化コース」という助成金では、正規雇用された労働者全てが対象ではありません。9つの要件全てを満たす労働者が対象となります。
いくつかご紹介すると、事業主の3親等以内の親族でないこと、事業所で定年を迎えた労働者でないことなどがあります。
詳細は、パンフレットの15pでご確認ください。
何をすれば支給される?
この「正社員化コース」という助成金では、以下のことをすると助成されます。
- 有期雇用労働者を正規雇用労働者に転換
- 有期雇用労働者を無期雇用労働者に転換
- 無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換
これら3種類の行為を、1年度1事業所当たり20人まで支給申請が可能です。
また、派遣労働者を派遣先で多様な正社員として直接雇用した場合は、助成額が加算されます。
その他、母子家庭の母、父子家庭の父を転換した場合、さらに若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の労働者を転換した場合にも助成額が加算されます。
ちなみに「多様な正社員」とは、以下の様な正社員のことです。
- 勤務地限定正社員
- 他の正規雇用の正社員と雇用条件に変わりはなく、ただ、勤務地が限定されている正社員
- 職務限定正社員
- 他の正規雇用の正社員と雇用条件に変わりはなく、ただ、職務が限定されている正社員
- 短時間正社員
- 他の正規雇用の正社員と雇用条件に変わりはなく、ただ、勤務時間が他の正社員に比べ短い
この多様な正社員の制度を新たに規定し、有期雇用労働者をこの多様な正社員に転換または直接雇用した場合にも、助成額が加算されます。
支給申請と支給額
では、助成される額はどの程度なのでしょうか?また、申請はどうすれば良いのでしょうか?
支給申請期間
画像引用:厚生労働省 キャリアアップ助成金パンフレット 22p
申請期間は、転換または直接雇用した対象労働者に対し、正規雇用労働者、無期雇用労働者としての賃金を6ヶ月分支給した日の翌日から起算して2ヶ月以内です。
申請書類と添付書類
この「キャリアアップ助成金」では、キャリアアップに係る取組実施日までに都道府県労働局に「キャリアアップ計画書」を提出し、認定を受ける必要があります。
- 様式第1号「キャリアアップ計画書」
- 様式第2号「キャリアアップ計画書(変更届)」
認定を受けたら、計画に沿ってキャリアアップの取組を実施します。計画終了後、支給申請を行います。
支給申請に必要となる書類は、以下の通りです。
- 様式第3号「キャリアアップ助成金支給申請書」
- 様式第1号「キャリアアップ計画書」写し
- 変更届を提出している場合は、変更届の写しも必要
- 都道府県労働局長の認定を受けた「キャリアアップ計画書」であること
- 様式第3号 別添様式1-1「正社員化コース内訳」
- 様式第3号 別添様式1-1「正社員化コース内訳 継紙」
- 上記3.の「正社員化コース内訳」だけでは足りない場合、添付
- 様式第3号 別添様式1-2「正社員化コース対象労働者詳細」
- 様式第3号 別添様式1-2「正社員化コース対象労働者詳細 継紙」
- 上記5.の「正社員化コース対象労働者詳細」では足りない場合、添付
- 支払方法・受取人住所届
- 未登録の場合
以上、これら様式が決まっている書類につきましては、厚生労働省のHPからダウンロードできます。
その他、添付書類も必要です。添付書類は特に様式が決まっているわけではありませんので、自分で作成する必要があります。
- 転換制度または直接雇用制度が規定されている労働協約または就業規則、その他これに準ずるもの
- 転換後に改訂されている場合、当該転換前の直近のものに限る
- 転換後または直接雇用後に対象労働者が適用されている労働協約または就業規則
- 賃金規定等を別添作成している場合は、当該賃金規定等を含む
- 対象労働者の転換前または直接雇用前および転換後または直接雇用後の雇用契約書または労働条件通知書等、労働条件が確認できる書類
- 必要に応じて労働者本人の署名等が分かる労働契約書等
- 対象労働者の労働基準法第108条に定める賃金台帳または、船員法第58条の2に定める報酬支払簿および賃金5%以上増額に係る計算書
- 賃金上昇要件確認ツール等
- 以下に係る部分が必要
- 転換前6ヶ月分
- 転換後6か月分
- 直接雇用後6か月分
- 多様な正社員の雇用区分が規定されている労働協約または就業規則
- 多様な正社員への転換または、直接雇用の場合
- 正規雇用労働者に適用されている労働協約または就業規則
- 多様な正社員への転換または、直接雇用の場合
- 転換日または直接雇用日に雇用されていた正規労働者の雇用契約書等
- 多様な正社員への転換または、直接雇用の場合
- 必要に応じて労働者本人の署名等が分かる雇用契約書等
- 対象労働者の出勤簿、タイムカードまたは船員法第67条に定める記録簿等出勤状況が確認できる書類
- 転換前6ヶ月分と転換後6か月分、または直接雇用後6か月分
- 勤務地限定正社員制度または職務限定正社員制度を新たに規定した場合の加算の適用を受ける場合には、以下の2つの書類も必要
- 上記3.の書類に加え、当該雇用区分の規定前の労働協約または就業規則
- 上記1.の書類に加え、当該転換制度の規定前の労働協約または就業規則、その他これに準ずるもの
- 中小企業事業主の場合、中小企業事業主であることを確認できる書類
- 企業の資本の額又は出資の総額により中小企業主に該当する場合
- 登記事項証明書、資本の額または出資の総額を記載した書類等
- 企業全体の常時雇用する労働者の数により中小企業事業主に該当する場合
- 様式第4号「事業所確認票」
- 企業の資本の額又は出資の総額により中小企業主に該当する場合
- 若者雇用促進法に基づく認定事業主における35歳未満の者を転換または直接雇用した場合の支給額の適用を受ける場合は、若者雇用促進法に基づく認定事業主に係る基準適合事業主認定通知書及び基準適合事業主認定医申請書の写し
- 対象労働者に母子家庭の母等が含まれる場合は、以下のいずれかに該当する書類その他、母子家庭の母等である対象労働者の氏名、および当該労働者が母子家庭の母等であることが確認できるもの
- 国民年金法第37条に基づき遺族基礎年金の支給を受けている者が所持する国民年金証書
- 児童扶養手当法大4条に基づき児童扶養手当の支給を受けていることを証明する書類
- 母子及び父子ならびに寡婦福祉法第13条に基づき母児福祉資金貸付金の貸し付けを受けている者が所持する貸付決定通知書
- 日本国有鉄道改革法代6条第2項に規定する旅客鉄道株式会社の通勤定期乗車券の特別割引制度に基づき市区町村長または社会福祉事務所長が発行する特定者資格証明書
- 母子家庭の母等に対する手当や助成制度等を受給していることが確認できる書類の写し
- 児童扶養手当法施行規則第22条第1項に規定する児童扶養手当資格喪失通知書の写し及び母子家庭の母等申立書
- 住民票の写し及び母子家庭の母等申立書
- 対象労働者に父子家庭の父が含まれる場合は、以下のいずれかに該当する書類その他、父子家庭の父である対象労働者の氏名および当該労働者が父子家庭の父であることが確認できるもの
- 児童扶養手当法第4条に基づき児童扶養手当の支給を受けていることを証明する書類
- 日本国有鉄道改革法第6条第2項に規定する旅客鉄道株式会社の通勤定期乗車券の特別割引制度に基づき市区町村長または社会福祉事務所長が発行する特定者資格証明書
- 父子家庭の父に対する手当や助成制度等を受給していることが確認できる書類の写し
- 児童扶養手当法施行規則第22条第1項に規定する児童扶養手当資格喪失通知書の写し及び父子家庭の父申立書
- 住民票の写し並びに父子家庭の父であることおよび児童扶養手当の支給を受けていたことの申立書
以上の添付書類は、必要に応じて準備して提出しましょう。全ての書類が必要というわけではありません。また、この書類以外にも労働局が必要と認める書類の提出を求められることもあります。
派遣労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用する場合には、以下の書類の提出も必要となります。
- 直接雇用前の労働者派遣契約書
- 派遣先管理台帳
- 5%要件の確認のため、直接雇用前の賃金が確認できる給与明細等
支給額
支給額は、以下の通りとなります。この金額は対象となる労働者1人当たりの支給額です。
雇用形態 | 中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 | |||
---|---|---|---|---|---|
転換前 | 転換後 | 支給額 | 生産性が認められる場合の支給額 | 支給額 | 生産性が認められる場合の支給額 |
① 有期雇用 | 正規雇用 | 570,000円 | 720,000円 | 427,500円 | 540,000円 |
② 有期雇用 | 無期雇用 | 285,000円 | 360,000円 | 213,750円 | 270,000円 |
③ 無期雇用 | 正規雇用 | 285,000円 | 360,000円 | 213,750円 | 270,000円 |
その他、以下の場合には増額されます。
- 派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者または多様な正社員として直接雇用した場合
- 上の表の①③:285,000円(生産性要件:360,000円)
- 大企業も同額加算
- 母子家庭の母等、父子家庭の父を転換等した場合、または若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合
- 上の表①:95,000円(生産性要件:120,000円)
- 上の表②③:47.500円(生産性要件:60,000円)
- 大企業も同額
- 勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合
- 上の表①③中小企業:95,000円(生産性要件:120,000円)
- 上の表①③大企業:71,250円(生産性要件:90,000円)
- 1事業所当たりの加算額
まとめ
多様な働き方が求められる現代、必ずしも正社員として雇用されたい方ばかりではありません。
ですが、不安定な雇用形態では労働者のモチベーションも上がらず、事業所内全体の士気にも影響します。
その結果、労働時間ばかりが増加する半面、売り上げに直結することもなく生産性は下がる一方。
「キャリアアップ助成金」の「正社員化コース」は、所謂非正規雇用労働者の方々を正規雇用や有期雇用に転換することで、本人のモチベーションアップやスキルアップにつなげ、事業所内の生産性を向上させることが目的でもあります。
この助成金制度を積極的に活用することで、事業所内の生産性を向上させましょう。
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