「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用の労働者に対し、企業内でのキャリアアップに励んだり正規雇用につなげる活動をしたりといった、積極的な取り組みを行う事業主に対し助成する制度です。
では、どのような取り組みを行い、非正規雇用の労働者に対しどのような処遇をすれば、助成金が受けられるのでしょうか?
ここでは、「キャリアアップ助成金」の概要をご紹介します。
キャリアアップ助成金の目的と7つのコース
「キャリアアップ助成金」には、7つのコースがあります。その違いも併せてご説明しましょう。
何を目的とした助成金なのか?
まず、「キャリアアップ助成金」の目的です。
多くの企業に雇用されている「有期雇用労働者」「短時間労働者」「派遣労働者」といった、非正規雇用の労働者に対し、
「正社員として雇用する」、「正社員と同じような賃金規定にする」、「正社員と同じように健康診断を受けさせる」などの取組によって、
非正規雇用の労働者の意欲や能力を向上させることで、事業の生産性を向上させ、優秀な人材確保に努める所業主に対して助成する制度です。
支給対象となる事業主は?
支給対象となる事業主は、以下の要件を満たす事業主が対象となります。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する労働条件、勤務状況及び賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることが出来る事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
この5つの要件の中で3番の要件では、提出したキャリアアップ計画に変更が合った場合、その計画の取組を実施する前日までに「変更届」を提出しなければなりません。「変更届」の提出がない場合には、支給対象から外れます。
また、この助成金で言う「事業主」には、以下の様な企業も含まれています。
- 民間の事業主
- 民法上の公益法人
- 特定補営利活動促進法上の特定非営利活動法人(NPO法人)
- 医療法上の医療法人
- 社会福祉法上の社会福祉法人
不正受給と判断されないためには?(留意点)
上記の要件を満たしたとしても、場合によっては不支給決定となることがあります。また、書類に不備が有ったり疑義が合った場合など、不正受給が疑われる場合も不支給です。
- 助成金の支給決定にあたり、事業所の実地調査あり
- 帳簿等の確認調査を含む
- 予告なく調査を実施
- 調査を拒否した場合、不支給決定となる
- 提出された申請書類等の内容に基づき審査を実施
- 事業主の都合による差し替え、訂正は不可
- 出した申請書類等に疑義がある
- 管轄の都道府県労働局長から追加書類を求められた場合、期日までに提出が無ければ不支給決定
- 不正受給をしてから5年以内に申請した場合は不支給
- 助成金の支給決定後に不正受給が発覚した場合は助成金を返還
- 年3%の遅滞金
- 返還額の20%の違約金
- キャリアアップ助成金の趣旨・目的に沿った取り組みと判断されない場合は不支給決定
受給できない事業主
以下のどれかに該当する事業主は、助成金を受給できません。
- 支給申請した年度の前年度から前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない
- 支給申請日の前日から過去1年間に、労働関係法令の違反を行った
- 性風俗関連営業、接客を伴う飲食店等の営業、またはこれらの営業の一部を受託する営業を行っている
- 暴力団とかかわりがある
- 暴力主義的破壊活動を行った、または行う恐れがある団体に属している
- 支給申請日、または支給決定日の時点で倒産している
- 支給決定時に、雇用保険適用事業所の事業主ではない
7つのコースの概要
「キャリアアップ助成金」には様々なコースがあり、コースによってその取組も変わってきます。
正社員化コース
派遣労働者や有期雇用労働者などを、正規雇用労働者に転換または直接雇用した場合に受け取ることが出来る助成金です。
1年度1事業所当たり、20人まで助成金を受給できます。
賃金規定等改定コース
有期雇用労働者など、非正規雇用の労働者の基本給の賃金規定を2%以上増額改定し、昇給した場合助成されます。
申請回数は1年度1回までですが、1事業所当たり100人まで申請が可能です。
健康診断制定コース
有期雇用労働者などを対象に、「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上に実施した場合に助成されます。
対象となる健康診断は、雇入時健康診断、定期健康診断、人間ドックなどです。
申請は1事業所当たり1回のみです。
賃金規定等共通化コース
有期雇用労働者に関して正規雇用労働者と同じ職務等に応じた場合、賃金規定等を新たに作成し、適用した場合助成されます。
1事業所当たり1回のみ申請できます。また、最大20人まで申請が可能です。
諸手当制度共通化コース
有期雇用労働者に関し、正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合に助成されます。
申請は1事業所当たり1回のみですが、共通化した対象労働者は20人までOK。また、同時に共通化した諸手当は10種まで申請可能です。
選択的適用拡大導入時処遇改善コース
社機保険の適用範囲を拡大する措置の導入に伴い、有期雇用労働者等について、働き方の意向を適切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直し胃に反映させるための取組を実施して、これらの措置により新たに被保険者とした事業主に対し、助成されます。
申請は1事業所当たり1回のみです。ただし、同時に有期雇用労働者等の基本給を一定の割合以上に増額した場合、基本給の増額割合に応じて、助成額が加算されます。
短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者の週の所定労働時間の延長と処遇の改善をはかり、新たに被保険者とした場合に助成されます。
1年度1事業所当たり支給申請の上限は45人です。この人数は、令和3年3月31日までび暫定措置です。
生産性要件とは?
助成金を申請する企業が生産性向上の取組を実施し、3年間で生産性が向上していると判断できる場合、助成される金額が増額加算されます。
助成金によってはこの「生産性要件」を適用していないこともありますので、確認しておきましょう。
申請方法と申請書類
「キャリアアップ助成金」では、申請する前に「キャッリアアップ計画」の作成と提出が必要となります。
支給申請の流れ(共通)
画像引用:厚生労働省
キャリアアップ計画は、それぞれのコースの取組前までに必ず管轄の労働局に提出し、認定を受ける必要があります。
「キャリアアップ計画」とは?
有期雇用労働者等のキャリアアップに向けた取組を計画的に実施するため、今後の大まかな取り組みイメージをあらかじめ記載するものが、「キャリアアップ計画」です。
対象者、目的、目標、実施期間のほか、目標達成のための取り組みなどを記載します。
計画作成の留意点
計画を作成するにあたり、以下の点に留意しましょう。
- 計画期間は、3年以上5年以内
- 5年を超える取組の場合は、5年の期間満了後新しい計画を作成し、提出
- 「キャリアアップ管理者」を決める
- 「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」に沿って、大まかな取り組みの全体の流れを決める
- 計画対象者、目標、期間、目標を達成するために事業者が行う取り組みなどを記載
- 計画御対象となる有機児湯労働者や無期雇用労働者の意見が反映される様、有期雇用労働者等を含む事業所における全ての労働者の代表から意見を聴く
まとめ
「キャリアアップ助成金」は、有期雇用労働者、短時間労働者など、非正規雇用労働者のキャリアアップや安定した雇用のための取組をする事業者に対し助成される制度です。
派遣社員などの非正規雇用を正社員にするだけでなく、パートタイムや期間労働、アルバイトなどの雇用形態を希望する方に対しても、賃金や労働時間数の増加などによって安定した雇用を促進する取組にも助成されます。
令和2年度の助成金では助成額を一時的に増額しているコースもあり、活用するなら今がチャンスかもしれません。
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