厚生労働省が設けている助成金の中には、「建設事業主等に対する助成金」というものがあります。
この助成金は、建設事業主等に対して、建設労働者の雇用の改善や建設労働者の技能の向上のための訓練等を行った場合に、助成金を支給するというものです。
今回は、その中の「建設労働者認定訓練コース」という助成金についてご紹介していきます。
3種類ある認定訓練コース
「建設労働者認定訓練コース」は、雇用保険法の第63条第1項第8号と、雇用保険法施行規則第124条第1項に基づく人材開発支援のための助成金です。
趣旨としては、
「建設業における労働者の育成及び技能継承を図り、もって建設労働者の雇用の安定、並びに能力の開発及び向上に資するため、中小建設事業主及び中小建設事業主の団体に対して、必要な女性を行うもの」
引用:厚生労働省
とあります。
つまり、簡単に言えば、建設業に従事する従業員などの技能向上のために、訓練などを実施した場合などに、助成金を支払うというものです。
大きく分けて、「経費助成」「賃金助成」の2種類と、「生産性向上助成」の、計3種類があります。
経費助成
「経費助成」とは、訓練等にかかった経費に対し助成金を支払うというものです。
では、受給対象の団体、受給対象の訓練、助成額や申請の手続きといった内容を細かく見ていきましょう。
受給できるのはどんな人?
以下の要件を満たす、中小建設事業主または、中小建設事業主団体は、受給対象となります。
【中小建設事業主の要件】
- 都道府県から認定訓練助成事業補助金(運営費)または、広域団体認定訓練助成金の交付を受けて、認定訓練を行う雇用保険の適用を受ける中小建設事業主
- 雇用管理責任者を選任していること
この「雇用管理責任者」は、建設労働者の雇用の改善等に関する法律でその選任が義務付けられています。
【中小建設事業主団体の要件】
- 都道府県から認定訓練助成事業費補助金(運営費)または、広域団体認定訓練助成金の交付を受けている、認定訓練を行う中小建設事業主団体であること
- 構成員の50%以上を建設事業主が占めていること
- 構成員である建設事業主のうち、2/3以上が中小建設事業主であること
- 構成員である建設事業主の50%以上が雇用保険に加入していること
これらの要件を1つでも満たしていない場合は、支給対象外となります。
また、以下の方々も対象外となりますので、注意が必要です。
【支給対象外】
- 一人親方
- 同居の親族のみを使用して建設業を行っている者
これらの方々は、労働基準法において規定する「事業主」に該当しないため、助成金の対象外となります。
対象となる訓練は?
助成金の対象となる訓練は、職業能力開発促進法第24条第1項に規定する認定職業訓練または、同法第27条第1項に規定する指導員訓練の内、以下の表にある訓練に限定されます。
この助成金は、経理や営業の方の能力向上のための訓練は対象となりません。
訓練系 | 専攻科 |
---|---|
園芸サービス系 | 造園科 |
金属加工系 | 塑性加工科 |
溶接科 | |
構造物鉄工科 | |
木材加工系 | 木工科 |
電力系 | 電気工事科 |
送配電科 | |
機械整備系 | 建設機械整備科 |
石材系 | 石材加工科 |
建築施工系 | 木造建築科 |
枠組壁建築科 | |
とび科 | |
鉄筋コンクリート施工科 | |
プレハブ建築科 | |
建築設計科 | |
建築外装系 | 屋根施工科 |
スレート施工科 | |
防水施工科 | |
サッシ・ガラス施工科 | |
建築板金科 | |
建築内装系 | 畳科 |
インテリア・サービス科 | |
床仕上施工科 | |
表具科 | |
建築仕上系 | 左官・タイル施工科 |
築炉科 | |
ブロック施行科 | |
熱絶縁施行科 | |
設備施工系 | 冷凍空調設備科 |
配管科 | |
住宅設備機器科 | |
土木系 | さく井科 |
土木施工科 | |
揚重運搬機械運転系 | クレーン運転科 |
建設機械運転科 | |
塗装系 | 建築塗装科 |
この表の訓練は、普通職業訓練の普通課程です。このほか、短期課程の訓練や高度職業訓練、指導員訓練も、助成金の対象となります。詳細については、各地の労働局へ確認してください。
助成額
広域団体認定訓練助成金の支給又は、認定訓練助成事業費補助金の交付を受けて都道府県が行う助成により、「助成対象経費」とされた額の1/6相当額です。
ただし、100円未満は切り捨て、消費税相当額は支給対象経費に含まれます。
支給申請の手続き
助成金支給申請の手順は以下の通りです。
- 認定訓練終了後、都道府県から認定職業訓練の補助額に係る精算確定の通知を受け取る
- 通知発行の翌日から2か月以内に、必要書類を揃えて管轄都道府県の労働局に提出
- 支給決定、または不支給決定通知が届く
申請期限は、2番の手順にあるように、都道府県から通知を受け取った翌日から2ヶ月です。それ以降は申請をしても助成金を受けられなくなってしまいます。
必要書類は以下の通りです。
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 支払方法・受取人住所届
- 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース(経費助成))支給申請書(建認様式第3号
- 受講者名簿及び人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース(経費助成))の助成金支給申請内訳書(建認様式第3号別紙1①)
- 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース(経費助成))の支給申請に係る経費区分内訳書(建認様式第3号別紙2)
- 認定運連助成事業費補助金(運営費)交付決定通知書(写し)または、広域団体認定訓練助成金支給決定通知書(写し)
- 認定訓練助成事業費(運営費)補助事業実績報告書(写し)
- 助成対象となる訓練科ごとの経費内訳が分かる書類(任意様式)
- その他管轄都道府県労働局長が必要とみと認める書類
これらの申請書類は、厚生労働省のHPからダウンロードできます。記載例もあるので、確認しながら漏れやミスのないように記載しましょう。
賃金助成
この「賃金助成」とは、雇用する建設労働者に、有給で認定訓練を受講させた中小建設事業主に対して助成金を支払うことを目的としています。
受給できる対象は?
受給対象となるのは、以下の要件を満たす中小建設事業主です。この「賃金助成」の場合は、中小建設事業主団体は支給の対象外となります。
【要件】
雇用保険法施行規則第125条第2項の人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース)または、同条第7項の人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)の支給決定を受けたもの
※これらの訓練の内、中小建設事業主が認定訓練を行う施設に労働者を派遣する場合に係るものに限定されます。
対象となる訓練は?
助成の対象となる訓練は、「経費助成」と同じです。上の表を確認してください。
また、経理や営業などの訓練は含まれませんので注意しましょう。
助成額
助成額は、算定対象の建設労働者1人につき、日額3,800円です。
つまり、受講者数 × 受講日数 × 3,800円 = 支給額となります。
この「日額」は、訓練を受講した日のことで、訓練を受けていない日は算定対象外となります。
また、支給年度毎のこの助成金と、この後に説明する「生産向上助成」の合計支給額が1,000万円を超えた場合、1,000万円が上限となります。
支給申請の手続き
助成金支給申請の手順は、以下の通りです。
こちらの助成金にも申請期限がありますので、早めに書類の準備をしましょう。
※申請期限:認定訓練を終了した翌日から起算して2か月以内
- 人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、特別育成訓練コース)の支給申請
- 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース(賃金助成))の支給申請
- 人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、特別育成訓練コース)の支給決定
- 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース(賃金助成))の支給決定
申請書類の提出先は、雇用保険適用事業所ごとに、管轄する労働局長です。都道府県によってはハローワークでも受付をしていることもありますので、管轄する労働局に確認してみて下さい。
提出書類は以下の通りです。
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 支払方法・受取人住所届
- 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース(賃金助成・生産性向上助成))支給申請書(建認様式第4号)
- 「人材開発支援助成金支給申請書」等(写し)
- その他管轄都道府県労働局長が必要と認める書類
これらの申請書類も、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。また、記載例もありますので確認しておきましょう。
生産性向上助成
「生産性向上助成」は、生産性が向上したと認定された場合に、「賃金助成」に上乗せされる助成金で、独立したものではありません。
ですので、「賃金助成」のおまけの様なものと捉えておきましょう。
受給できる対象は?
受給できるのは、建設労働者認定訓練コース(賃金助成)の支給決定を受けている中小建設事業主で、生産性要件を満たしている方です。
生産性要件とは?
生産性要件は、
「訓練開始日が属する会計年度の前年度と、その3年度後の会計年度の生産性を比較することによって算定した伸び率等を生産性要件とする」
とあります。
ただし、この期間内に事業主都合で解雇等をしていないことも要件に含まれます。
では、順を追ってご説明しますね。
先ずは、算定方法から。「生産性」は、以下の計算式によって計算します。
生産性 = 付加価値/ 雇用保険被保険者数
分母となる「雇用保険被保険者数」には、日雇労働者被保険者や短期雇用特例被保険者は含まれません。この生産性算定については、専用の計算シートがあります。厚生労働省のHPからダウンロードできます。
付加価値は、厚生労働省のHPに以下のように説明されています。
付加価値とは、企業の場合、営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課、の式で算定され、直近の会計年度もその3年度前もプラスであることが必要です。
引用:厚生労働省
詳しくは、厚生労働省のホームページを参照いただくか管轄の都道府県労働局にお問い合わせください。
次に、生産性の対象となる数値についてです。助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、以下のいずれかに該当していることも、要件の1つとなります。
- 助成金の支給申請等を行う直近の会計年度における生産性が、その3年前に比べて6%以上伸びていること
- 助成金の支給申請等を行う直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
- 金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること
ここで言う、「助成金の支給申請等を行う直近の会計年度」とは、先にご紹介した「要領」にある
訓練開始日が属する会計年度の前年度の初日及びその3年度後
引用:厚生労働省
のことです。ややこしいですよね。
つまり、上の図で「訓練開始日が属する会計年度」が2020年度なら、その前年度は2019年度、3年後は2022年度となります。
では、次に離職者についてご説明します。
この算定の対象となる期間中に、事業主の都合により離職者がいないことが必要です。「退職勧奨」、いわゆる「かたたたき」も含まれます。
ただし、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者はこの離職者に含まれません。また、以下の原因による離職も含まれません。
- 労働者の帰すべき理由による解雇
- 天災その他やむを得ない理由により事業の継続が不可能となったことによる解雇
助成額
生産性向上が認められると、助成金を受けることが出来ます。この助成金は、前項でご紹介した「賃金助成」に上乗せするものです。金額は、訓練を受講した労働者1人につき、訓練を受講した日数1日当たり、1,000円になります。
詳しくは、厚生労働省発行のパンフレットをご確認ください。
支給申請の手続き
提出先 | 雇用保険の適用事業所ごとの管轄労働局長 |
提出期間 | 生産性向上助成の対象となった認定訓練の、訓練開始日が属する会計年度の前年度から、3年度後の会計年度の末日の翌日から起算して5ヶ月以内 |
提出書類 | 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース(生産性向上助成))支給申請書(建設事業主用)(建認様式第4号) |
生産性要件算定シート(共通要領様式第2号) | |
算定の根拠となる証拠書類(損益計算書、総勘定元帳、等) |
まとめ
建設業界、特に施工現場では、日雇や非正規雇用も多く、技能継承が正しく行われていないのが実情です。
しかも、これら助成金の対象となる中小建設事業主の多くは、下請け・孫請け企業であり、正規で雇用したり、労働者の技能向上のための訓練を実施したりといったことが、難しいという問題もあります。
この助成金は、この問題を解決することを目的として設けられたものであり、対象となるのも中小建設事業主や、中小建設事業主が構成員となっている団体です。
ぜひ、これら助成金を上手く活用して、技術者の技能向上に勤めましょう。
関連記事
コメントを残す