横浜国立大学理工学部建築都市環境系学科卒
一級鉄筋技能士
本来であれば、建物の構造の設計は構造設計を専門にする設計会社が担当する業務であり、我々のような鉄筋業者が構造に関しての議論をすることは少ないです。
しかし、設計通りに配筋ができない場合や、非常に施工効率性が悪い場合は「曲げモーメント」や「応力」といった言葉を使いながら話し合ったり、質疑を出す場合もあります。
この記事では、「曲げモーメント」や「応力図」が実際の配筋の圧接の位置や主筋の本数にどのように影響を与えるのかを簡単に説明します。
目次
曲げモーメント
曲げモーメントという言葉に苦手意識を持つ方は多いのではないでしょうか?
厳密な力学的な定義などは置いておいて、簡単なイメージとその意味だけでも押さえておきましょう。
部材を曲げようとする力のこと
曲げモーメントとは、部材を曲げようとする力のことを言います。
曲げモーメントが生じると部材の上下幅が変わります。
例えば、正方形の部材の場合は曲げモーメントによって扇形のように部材の形状が変わります。
この時、部材の辺の長さが短くなった側を圧縮側、辺の長さが長くなった側を引張側といいます。
鉄筋は曲げモーメントによって発生した引張力を負担する
鉄筋コンクリート構造では、曲げモーメントによって生じる引張力を鉄筋が負担することを覚えておきましょう。
鉄筋の本数が多かったり、鉄筋の径が太かったりする理由はその箇所に大きな曲げモーメントが生じていることが最大の理由です。
コンクリートの引張強度は圧縮強度の1/10
コンクリートは圧縮に強く引張に弱い。RC造では引張は鉄筋が受け持つ
設計に自信が持てない場合は余計な鉄筋が配置される
設計会社やゼネコンとの協議で設計や配筋方法が変更になるケースがよくありますよね。
その中でも「なぜこんなに細かい配筋が必要なのか?」「なぜこの箇所だけ鉄筋の径が太いのか?」「この補強筋は本当に必要なのか?」と疑問に思うことも多々あります。
そのようなケースの大半は、「詳細な設計をする時間がなく、自信がないから過剰な鉄筋をとりあえずいれておく」という安易な理由が大半です。
鉄筋業者からすれば余計な配筋や複雑な配筋はムダなコストにつながるので、こんなに迷惑なことはありません。
複雑な構造計算はできる必要は全くありませんが、せめて「曲げモーメント」の考え方だけは理解しておいて設計者やゼネコン側と協議できる知識を持っておきましょう。
消しゴムを使うとわかりやすい
曲げモーメントに対してどうしても苦手意識を持ってしまう場合は、「曲げモーメント=消しゴム」で苦手意識を消していきましょう。
僕自身も未だに「曲げモーメント」と聞くと小難しい感じがして引っ込み思案になってしまいます。
曲げモーメント→消しゴム→引張側を鉄筋が受け持つ設計になるという感じで簡単なイメージを持っていると苦手意識を消せるのでお勧めです。
曲げモーメント→消しゴム→引張側を鉄筋が受け持つ設計になる
応力図
応力図は部材に生じている応力の大きさを示したものです。
曲げモーメントが大きく生じている箇所には鉄筋の本数を増やしたり、鉄筋の圧接や継手の位置をずらしたりして配筋します。
曲げモーメントの大きさが配筋の方法に大きな影響を与えることを頭の隅に置いておきましょう。
単純梁
単純梁は図のように梁の下側が引張側になるように変形し、曲げモーメントは中央部が一番大きくなります。
このため、鉄筋は下側の鉄筋の本数を増やし、圧接の位置は下側の鉄筋は端部にするようにします。
RC梁の内部にPC鋼材を挿入する場合がありますが、曲げモーメントが発生する位置に合わせてPC鋼材も挿入するようにします。
単純梁の場合であれば、中央部で最大曲げモーメントに対応できるように円弧を書くように挿入するのが一般的です。
片持ち梁
片持ち梁の場合、図のように梁の上側が引張側になるように変形し、曲げモーメントは固定端が一番大きくなります。
このため、鉄筋は上側の鉄筋の本数を増やし、固定端もダブル配筋にすることで対応します。
片持ち式の階段
鉄筋技能士の学科試験では、片持ち式の階段はダブル配筋された壁からはねだした構造になっているかどうかを問う問題が頻発します。
片持ち式の場合は、固定端の曲げモーメントが大きくなるため、一般的にはシングル配筋ではなくダブル配筋になることを押さえておきましょう。
このように曲げモーメントのイメージが少しでも出来れいれば学科試験も難しくないと思います。
まとめ
この記事では、「曲げモーメント」や「応力図」について、実際の配筋の圧接の位置や主筋の本数にどのように影響を与えるのかを説明しました。
モーメントという言葉で苦手意識をもっている方も多いと思いますが、ぜひ消しゴムを使って簡単にイメージして苦手意識を克服してもらえたらと思います。